日本でバイトしたらこうなった(9)

 

結局。若者は年を越さずに辞めた。かなり引き留められたらしいが(当たり前だ)なんせバイトの気軽さ。ほんの妥協案として、今週いっぱいまで(要は二日間だけ)働くということになって、それでオシマイということになった。彼の気持ちも分かる。激務すぎたのだ。退職時には、彼の足の爪が3枚も剥がれていた(マジである)

俺も、さすがに引き留めることもしなかった。それに、いったん辞めるといったヤツというのは気持ちが折れているので、結局引き留めたところで続かないことを、俺は人生経験上知っていた。

五連勤の後。彼は新幹線に乗って、多摩センターに帰って行った。

 

去る者がいれば、来る者もある。

実は。過去、これまでに。寮に新しく人が入るという話は何度もあったんだが、『一日持たずに退職』というバックレが多発した為、俺らしか寮に住んでいなかったんだが、今度新たに、本当に人が入居するというのだ。俺と二人暮らしである。

若者と入れ替わるようにして来たのが…まだ22歳の青年であった。彼はスキーガチ勢。プロを目指していて、夏はカナダ、冬は新潟で腕を磨いているというヤツだった。

なお。本来、彼は俺と同じ店に配属される予定だったんだが、若者が退職したので、激務のほうの店に勤めることになった(合掌)

というわけで五連勤もなんとか終わり、また二日間休みを貰った。ひとりでの休みは寂しいが、同じようにスーパーに行き、洗濯をし、何度も風呂に入って時間を潰した。筋肉痛は相変わらずだが、少しはマシになってきた気もする。

それに、新しい配属先は、心地よい疲れと労働と、やり甲斐がミックスされていて、とても良いのだ。というわけで、休暇の後は労働だ。いよいよ年越しである。時給のほうも200円!アップなので、一時間で560ペソも貰えてしまうのである。ふふふ。フィリピン人の日給を一時間で稼ぐ男なのである。

「今日からまたアッチの店戻って」

なんということでしょう…

店に到着すると、店長が申し訳なさそうに言ってきた。あの「常識外のキチガイ激務店」に戻れというのだ。

えええええ….

えええええ…

「お断りします」とは言えない…が…行きたくない….

「アッチ、ヒトが足りなくって…」知ってる!重々知ってる!

じゃあ、歩いていきます(←ほんの少しでも、店に居たくない)「いや、車で送って行くよ」

えええええ….

というわけで。せっかく充実しかけたワイのバイト生活は、再び地獄となったのであった…

地獄店に到着

到着すると、やっぱり地獄だった。うん。知ってた(笑)余りの人手不足。関東の支店から社員だのお偉いだのが ヘルプで来ていた(笑)

そんで。ワイが命じられたのは仕込み!ちょっと意外な仕事だった。驚いたことに、このラーメン屋は自家製スープをうたっていたんだが、どーせ業務用だろ?と思っていたのだ。それは違った。マジで、本当に豚骨スープを作っていたのだ。ワイは出来上がったスープを小分けにする仕事をやることになった。簡単そうだが、何百リットルもある豚骨スープを、タボで延々と小分けするんだからそれなりの労働だ。

しかも。(出た!)やっている最中に「食器洗って!」「何番テーブル下げて!」「餃子2枚!」と声がかかるので、仕込みは全然進まない。

そうこうしているうちに、下げた食器がクッソ山盛りになっており(とてつもない量である)もう誰かが絶対洗わなければいけない状態となったんで、俺は食器を洗うことにした。

死ぬほど重なった食器の下。流しの排水はラーメンで詰まっている。(よく詰まるのだ)まずそれを解決せねばなるまい。

まずは排水口が見えるまで、手洗いで食器を洗いつつ、食洗器を回そうとおもい、それを実践していたら

「あーーーダメダメ!」

社員様から怒られた。

「なにやってんの!詰まったの?」

あ、ハイ

「なんで水出しっぱなしにしてんの!!」

いや、食器を洗っていたんですが?

「基本は節水!!!」

えええええ?

節水と言われ、蛇口を締められた。いや、食器を洗うのに節水もクソも無いだろ…

いい?流しが詰まったらねぇ。こうやってね?(汚水に食器を付けて、指で油を落とす)チョット洗えばいいの!(←ほとんど洗ってない)

えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ x100

いや!それは!それは無し!それはやっちゃいけない!それはマジでアカンだろ!禁断の秘儀だろそれもう!

食中毒ドンと来い じゃん!!

(いや…あの…食洗器の加熱ってのは、殺菌作用があるから意味があるんですが…)

さすがの俺も棒立ちである。

”全部食洗器にかけてたら間に合わないでしょ?”(そりゃそうだ。小さい機械ひとつしかないんだからな!)
だから、ドンブリは手洗い(という名の、汚水利用)でいいから!

ハァー…ワカリマシタ

いや。それは、いくら業務命令とはいえ無理である。というか無謀である。こんなことしてたら、いくら冬とはいえ、必ずいつか新聞に載る(笑)
というわけで、俺は仕事の手抜きの逆!汚水利用はせずに、節水もせずに、手洗いは清水をつかうことにした。水道光熱費なんて、どーせ全額100%経費だろっての!そもそもお客さんに悪いよ。まともに洗ってない器で出せないだろうよ!

というわけで。俺は面従腹背で応じた。節水をしている風にしなければならないという、全く無駄な努力コミである。

結果。なんと10時間半ぶっ続けで食器を洗っていた…これがどれだけの労働か…もう本当に労働そのものであった….もうマジで、カネは要らないから帰りたいんですけど…ってな具合である…

 

それでも時間は平等に流れてくれる。ようやく。ようやく!閉店となり、翌日の開店準備のフェーズに移った。

お店のほうも、最後の客が退店すると、少し気も緩む空気が流れる。長い長い一日が終わろうとしているのだ。

俺は、ノンビリ割りばしを補充しながら、全員の前で断言した。

明日もこの店だったら、俺辞めます。以前の店だったら続けます

この激務店は、ハッキリいって滅茶苦茶すぎるので、まったく無理だということが、改めて分かったからだった。

返事はアッサリしたものだった。

アッそう。じゃあ戻っていいよ!

—あれ?

俺は会社の人事にクチを出したんだが、意外と簡単だった。言ってみるもんだ!

なにしろこの会社。万年人手不足もいいところなんで、もうどこの店でもいいから働いてくれるだけでOK!ということらしい。

良かった…..

 

海外に暮らしていると、言いたいことをキッパリと言ってしまう悪癖が出るのであるが、今回ばかりは吉と出た。

というわけで、俺は地獄店から転進することが出来た。

次回最終回

最初の感想を呟いてみましょう

入力せずに呟けます