三億ペソを抱いて寝る男(10)

バコールからサンフェルナンドなんて、空いていれば2時間くらいである。

俺は車を停め、玉城を起こした。着きましたよ、と声をかけると

「ん、ああ、着きました?ここどこですか?」

サンフェルナンドです。

「ああ、まだサンフェルナンドですか。じゃあバギオまで行って下さい。バギオからサンフェルナンド方面(※フィリピンには同じ地名が沢山ある。ここではバギオからさらに北上したサンフェルナンドに行けという意味)」

え、バギオ?!

車の後ろでは、「コンボイ」もハザードを出して止まっているが、雨も酷くなってきているので 誰も降りてこない。

じゃあ一応小休止という体にして、俺はトイレに行った。

そして、ちょっとため息をついて、ナビをバギオに合わせ、車を発進させる。玉城も起きてきた。

「ああ、寝ちゃいました」

寝ちゃいましたじゃねーよ。じゃあ高速降りる必要なかったじゃん。あんだけ音楽を爆音でかけていたのに、よく眠れるもんだよ。

—そんで玉城さん。例のカジノのイカサマフィーバータイムがどうなったのかについて。道中話すって言いましたよね!

「まぁまぁ。話しますよ」

玉城は続きを話し出した。「このあいだ。3つのグループに軍団が分かれて、イカサマフィーバータイムを暴くという話までしたと思うんですがね」

ついに玉城がクチを開いたw

「そのうちAチームはカジノ専業で、イカサマカジノに張り付いて頑張りました。これがだいたい、再スタートしてから半年間やりました」

はい

「そうしているとね。カジノ側も、もう完全にコッチのことは知っている訳ですよ」

そうですよね。天井のカメラとかスゴイですもんね

「そうそう。そうすると、ディーラーとかもね。”アレ、今日はふたりだけなの?”みたいな声もかけてくるわけよ」

おお

「いや元々、他愛もない話程度はしていたんだけどね」

はい

「そんで我々はフィーバータイム待ちで、頑張っているわけじゃん」

はいw 凄いですよねそれ。気が狂いますよ…

「もう、ここまで来たら意地よw Aチームは、ホント凄いと思う。でも夕方にだけ張っていればいいからね。夕方の特定の時間帯だけ見に行けばいいから。もうAチームはさ。カジノから徒歩のところにアパート借りてたから」

あーそっか。

「俺んちに水槽あったでしょ?魚泳いでたじゃんね」

ありましたっけ

「あの魚ね。マリオットの池からさ。Aチームがすくってきた魚だから」

おい!www

「だってAチーム、若い男が三人、ヒマじゃないけど時間はあるじゃんか。ズッと毎日、次のフィーバータイムがいつなのかを予想してるの辛いぜ?そんとき すくってきた魚が、いまトラックの中にいるwww」

確かに病みそうw ちなみにフィーバータイムの時は賭けるんですよね

「もちろん」

いくらくらい儲かるんですか?

「だいたい3倍くらいかな。それ以上のこともある。ブレは大きいよギャンブルだから」

おー。かなり儲かりますね!

「そうなのよ。とにかくフィーバータイムになったら、賭け予算をね。予算は4分割してあるんだけど…つまり25%を賭ける。100万だったら25万づつ賭ける。なんで四分割かっていうと、フィーバータイムでも外れることはあるからさ。ただ、三回賭けて全部外すということはまず無いわけ」

なるほど

「とは言ってもさ。外したらどうすんの?ってなるじゃんギャンブルなんだから。だから3回外したら、もう残り25%になったら撤退して、その余りは命カネとして取っておこうと。」

当たったら?

「乗っけて倍賭けの時もあるし、元金をもう一度の時もあるな。基本、ブル(強気)賭けよ。フィーバータイムというのはね。『大』が出るの。倍になるのね。大に賭けておけば、出目が偏ってしまっても勝てる可能性が高いことが、コレはデータで取れてたから。『大』一本賭け。こっちは生活と人生賭けているから、もう仕事でやってるから、『大』に賭けるわけ。そうすると、それが4回から6回くらい連続するの。だから25万賭けたら、軽く800万くらい受け取れる。だからスタートしたら『逆マーチンゲール』で張るわけよ。ただ、最後は必ず小が出て負けるから、いつ引くかだけは現場で決めないといけない。だから三回目は最も厚く張るわけ。これは100%倍だから。大体4回から6回で小が出る。出たらフィーバータイムはオシマイってわけ」

スッゴ!!

「そう。凄いのよ。増えたカネをまた四分割して、それをまた25%づつ賭けていくでしょ?負けることもあるけど、圧倒的勝率に支えられているからさ。8割以上勝てるんだから、常勝よ。半年もしたら、もうずいぶん生活に余裕も出てきちゃったわけ」

ハハハ。じゃあBチームとかCチームとか要らなかったじゃないですかw

「それなwwあの掟、半分意味なかったww」

でも。おかしいですよね。そんな動きしてたら、カジノ側から目を付けられるじゃないですか

「それがねぇ。全然そんなことはなかったのよ」

ええ!!

「もう、カジノ側はウェルカムだったよ。部屋の無料宿泊券とか貰ったりして」

えええ!そうなんですか。追い出されたのに?

「ああ、初期の頃の話ね。追い出されたヤツはカジノに入れなくなったからね。ソイツは自主的にCチームに入ったよ。自分の立場知ってたから」

アラそうだったんですかw ほんでどうなったんですか?

「簡単に、大体一億円くらいたまったところで、Aチームはさ。もう謎を解くことについては諦めていたね。」

ああ…

「力技で、ひたすら待つという作戦でさ。カネが増え続けるんだから。もうこれでよくね?ということになっちゃった」

えーーー!じゃあ謎はまだ解けてない?

「そこにラップトップ(※ノートPCのこと)あるじゃん。そこにデータ入ってるから見ていいよ」

いや俺運転してるじゃないですかw じゃあ見たいから代わってください。

俺は助手席に座り直すと、玉城のデータを見せてもらった。データというかカレンダーソフトに、その日のことが簡単にメモ書きされているといった風だ。

初見の感想としては『これ毎日張り付く必要なくね?』と思った。確かに一か月に一度二度程度だが、逆に言えば一回フィーバータイムが終われば二週間くらい、ほとんど空いている。それを玉城に伝えると、

「そうなんだよな。それはすぐ気づいたよ。でもな?じゃあ、翌日行かないって選択肢は無いよ。Aチームは仕事でやってるんだし、やることないんだから。「現場に行くことが大事、そこは絶対緩まない」って結束してたしね」

ああ…確かに。やることないですもんね。それに万が一見逃したら…

「そう。他のチームが一生懸命やってるのに、Aチームがサボってることになってしまう」

なるほど。ところでもうひとつ疑問なんですが、大小って、サイコロがカプセルの中に入っているじゃないですか。アレは触れられない仕組みじゃないですか。以前、「客にサービスで降らせるところがある」っておっしゃってましたけど、それが『合図』なんですか?

「そういうところもある。いや、あったんだけど、今はもう無い。」

え、じゃあどうやってサービスタイムだって分かるんですか?

「そりゃもうアレよ」

アレじゃないが

「分かりやすいのよ。客にも分かりやすくしてるもん。サービスタイムですよって、見る人が見ればわかるようになってる。」

へーーー

「まずね。ディーラーが変わる。男になる。ベテラン風のね。マネージャーみたいなヤツ。ここで昔だとね、サイコロ振りたい希望者とか指差したりしてたんだけども、それはある時期を境になくなった。いまはカプセルに触れたりね。そういう合図をしてくれる。かなり!あからさまに『これからやるよ!』という仕草をするのよ。難しいサインじゃない。普段、そんなこと絶対しないからね。だから夕方に、ディーラーが変わったときだけ注目していればいい」

えーーー。でも大小って、物理のサイコロじゃなくって、機械式だったりしません?

「あ、それは全部一緒。サービスタイムになったら出目は同じ」

そうなんですか!

「結局ね。カジノ側にすれば、出目なんてねぇ(笑)いくらでも操作できちゃうから」

まぁそうですよね

「大小なんて、機械式になってから、ホントコッチは楽になったくらいだよ。大小は古典的ギャンブルと違って、機械の種類も沢山あるからね。凄く楽よ」

そういうもんですか。え。じゃあそれって….ただの客寄せってことはないですよね?カジノは宣伝できないから、『勝負についての競争原理は働かない』という建前があるじゃないですか。でもそれを破るカジノがフィリピンには沢山存在した、ということじゃないですか?

「そうです。客寄せという理解が正しいのかも知れません。実際、私たちが儲かって大はしゃぎするのを見て、他の客は熱くなってベッドしますからね。カジノ側にとっても悪い話じゃないんです。コレ」

あーー

「私たちも、その可能性があると思って、Aチームは観光客丸出しの服装を「制服」と呼んで、勝ったら大はしゃぎして、次はどうするか迷いまくって、他の客にも声掛けしまくってましたからね。これは他の理由もありますが。このくらいの煙幕は張ってましたね。とにかくAチームはガチでしたから」

なるほど。客寄せだとしたら、「気づいてくれた」Aチームはむしろ優遇されるわけですね

「そうそうw 活気が出るしね。カジノって、ガラガラだと儲かる気がしないのよ。パチンコ屋でもそうでしょ?誰もいないパチンコ屋なんて儲かる気がしない」

うーん。でも、客寄せなんていう、そんな単純なことだったら、カジノ側から接触してきても良さそうなものですが

「それをコッチも待っていたわけ」

なるほど

「もうお互いバレてんだから」

なるほどw

「フィーバータイムの時間だけ教えてくれたらいいんだから。でもそれは絶対御法度だから、多分無理なんじゃないかと思ってるワケこっちも」

はい

「で、Aチームも、じゃあ1億儲かったから2500万かけようか、みたいなことはしないで、静かに200万抜く、150万抜く、みたいなことを繰り返してくれたのね」

VIPルームとかじゃない?

「平(ヒラ)よ。全部ヒラ。さっきの客寄せの話は初期に議論されててさ。だったらVIPに行ったらアカンよねってことになって」

なるほど

「だいたいね。二か月で3回くらいなのよ。フィーバータイムが。だから二か月の収入をね、安定して1500万くらい抜くと。目立たずに」

はい

「この金額のためなら、残りの時間ぼーっといてもいいじゃん。一年で9000万になるんだから悪くないよね。それを10人で割ると、ひとりあたり年収900万ってことになる」

おお。まずまずの年収ってことになりますね

「そう。ここを崩したくないというので、Aチームは、まず初期に一億作って、そこからは静かにカネを抜くという方針にして、カジノにも迷惑かけない程度に、カジノにも利益になるような行動を心がけて進めていったわけ」

ですよね。年収900万円なら、やる価値あるかな

「円じゃないよ。ペソだよ」

ペソですか!!ww じゃあ玉城軍団員は、初期のころから、えーと年収2250万くらいかな?そのくらいに到達していたと。

「うーんまぁね。あとは効率の問題だったんだけども。こんな話、いつ終わるか分からんからね。フィーバータイムが、ある日からパッタリ無くなるかも知れないじゃん。だからヨソのカジノも抑えておきたいんだけど、そうなると人員が足りない。でもだからといって抜けるだけ抜こうとして、殺されたらつまんないじゃん」

確かに

「例えばさ。なんで電子レンジで食い物があったまるかなんて、正確に説明できる人とか、あんまりいないじゃん」

はい

「でもあったまるよね」

はい

「それと同じってことよ」

同じですか

「そう。細かい理屈は分からんけども、結果、望み通りになってるわけね」

ああ、お金を稼ぐというね

「そう!だからさ。ここでなにかもう闇を暴くとかね。法則を分析するとかじゃなくってね。スロットマシーンの椅子に座りながら、大小の方角を数時間眺めて監視さえしておけば、二か月に三回くらいという、絶妙な確率で、確実にお金が増えるタイミングだけみておけばいいんじゃね?と。こうなったわけよ。現にお金は増えてるんだから」

深追いせずにカネだけ抜くと

「そうそうw カジノ側の事情とか、これを知ってしまうと、かえってアブナイんじゃね?ってことね」

確かに

「それだけのカネ稼げてるんだから」

はい。え。じゃあ、Aチーム順風満帆、大成功じゃないですか

「そうよ」

はぁ…軽く言うが、ざっくり考えただけでも、控え目にいって年間二億円以上は抜いている計算になる。

運転代わった玉城は、キッチリ70キロで高速を北上している。

「だから、話長くなるっていったでしょ」

はい。でも、それで言ったらBチームとCチームの話も、それぞれあるってことになりますよね

「あるよ。コッチのほうが長いかもw」

えーーーーでも聞きたい

「うん結局ね。例えばBチームなんかも、このカジノの謎かけはね。A以上に考えて もがいていたわけ」

なんとかチカラになりたいと思って

「そうそう。全体でチームだからねABC。それに、チームとか関係なしに、とにかく謎を解きたいってのはみんな思っていたことだから。もう戦友同士みたいな」

ですよね

「で、まぁBチームが色々ともがいた結果、いろいろやらかしてくれたんだよね」

(11に続く)