三億ペソを抱いて寝る男(3)

カジノ必勝法。これまで数多の人が挑んできたが、破った人はほんの数人。それも伝説のギャンブラーたちである。とてもじゃないが、このタマちゃんがやれるとは思えないのだが…

「大小ってのはね、サイコロを振るでしょ。それで勝負が決まる」

はい

「そこの田舎カジノのサイコロがね。ただのサイコロだったんですよ」

—そりゃそうでしょう

「そうじゃないんですよ」

そうじゃないんですか

「そうじゃないんですよ。いいですか?タダのサイコロの場合ね、確率的に6が出る可能性が高くなるんです」

?!サイコロを振った出目を当てる確率は1/6—

「それは理論ですよね。現実では違って。市販のサイコロ。例えば角が丸くなっていて、1に赤い朱の入ったサイコロ。よくある市販のサイコロなんかは、かなりブレます。1はもっとも出にくく、6が最も出やすくなります。わずかですが、サイコロの重心の問題なんですね。1の目というのは大きく削られていますから。それに角に丸みを付けている時点で、グラサイ(比重を変えた、簡単にいえばイカサマサイコロのこと)もやりたい放題ということになります。そこのカジノは、そんなサイコロを使っていた。しかも客が手に取ることすらできたんです」

「本来であればですよ。カジノで使うサイコロというのは、完全に正面体でなければならず、角は正しく90度にしていなければおかしいのです。目は彫り目ではなく、印刷でなければなりません。それでも比重を少し変えるだけで、カジノ側が有利に出来てしまうのです。ところが、そこのカジノではですね、ただの市販のサイコロを使って客を楽しませていたんです。」

…..

「それでですね。わたしは接着剤の会社辞めました」

え?あ、話戻ったんですねw 辞めたんですか!

「まぁもうね。こんなこと続くと思ってなかったし、会社に忠誠心もあったんでね…会社のカネで遊びまくっているに罪悪感もあったので。それでね?わたしは、この田舎にホテルを取って、もうずっと出目を見ていたわけですよ」

ハイ!

なんだかメチャクチャおもしろい話になってきた。

「そしたらね?期待値が101.5%—くらいになった」

???どういうことですか??

「アンタ文系でしょ!!」

あ、ハイ

「やっぱりねぇ~!そうだと思ったよ!!」

いや、散々SNSに書いてますが…w

「ああそうだっけ?ええとつまりね。100万円賭けたら、101万5000円になると期待できる。ということ」

そうですか

「そうですかじゃないよ!!これはもう天啓だよ。いい?100万円が101万5000円になる。その101万5000円をまた賭ける。すると103万225円になる」

ああ…

「その103万225円をまた賭けると104万5678円になる…理論上は!!」これを10分置きに繰り返したらどうなるか!!分かるよね!!」

 

玉城さん。すいません。かなり無理があるように思えます—と言いかけて、ちょっと待てよと思い返した。

このひと。悪党の香りがしない。

お金というのはチカラである。人生の戦闘力のようなものだ。

普通、初対面のひとに、まず現金なんか見せない。そして、なによりもお金があるという事実がある。ここは否定せず、話の続きを聞いた方がいいんじゃないかと思い直した。

この理論程度で、カジノで勝つのは不可能に思えるが、カネが増えているのは間違いない。となると?どういうことになるのだろうか。

 

「話は分かりました。凄いですね。玉城さん。ホンデもしかして…実際やったら、カジノを追い出されたんじゃないですか?」