比在住者から見た「ルフィ」事件(1)

先週までは、フィリピン在住者同士『最近クニで強盗が多いンゴねぇ・・・』『日本もアブナインゴねぇ・・・』なんて、
どこか他人ゴトのように、サンミゲルビールを飲みながら日本のニュースを眺めていたのであったが
それが『指示役はフィリピン在住!』『マニラにいる日本人!』と大騒動になったので、みんなビックリしたのである。

無罪の日本男児は、みんな『いやいや・・・ワイじゃないよ!ア、アリバイあるしぃ!』と身の潔白を訴えるハメになったのであった。なんでよ。

続報で「ビクタンにいるオレオレ崩れのヤクザっぽい男性がルフィ」ということが判明してきたので、私たちは冤罪を免れたんであるが、
次はフィリピンの刑務所関係情報がドッと流れてくるようになった。私が使っている日本のニュースアプリでは、連日トップニュースがルフィの話題である。

比の情報となればポチって読んでみるのだが・・・それがもう間違いだらけなのだ。お金を貰って書いている署名記事とは思えない。
まぁみなさん、適当なことを書き散らしてくれてる。「いま大統領はドゥテルテじゃないし・・・」なんて、画面に向かって呟いたことも、二度や三度ではない。

というわけで今日は時事ネタ。フィリピン刑務所にいる「ルフィ」について、私なりに書いてみたいと思う。

 

そもそも、どうして「ルフィ」はビクタンにいるのか?

少しでもフィリピン通を気どる人なら、マニラの刑務所といえば「サンパギータ」か「ニュービリビッド」のふたつを思い浮かべるだろう。
この二大刑務所は、様々なドラマと話題を提供してきた悪名高い場所である。

ところがルフィはここにいるわけではない。小さいイミグレの収容所にいる。何故か?
実は、ルフィに限らず、基本的にフィリピン(マニラ)では、比人と外国人を分けて収容するようになったからである。

これはどうしてか書きたいのだが、書くと長くなるので簡潔に書こう。
フィリピンの刑務所は、余りにも人権が無いというので、外国からの抗議が絶えない。絶えないというのは、もう連日連夜、ありとあらゆる各国書記官から
問い合わせが来て、国連にも問題視されまくり、ついには最も腰の重い日本大使館でさえも「なんとかしてもいいんじゃないですか?」位のクレームが入った。
フィリピン政府は、これを内政干渉だと突っぱねていたのであるが(予算がなかっただけかも知れないが)
根本的な解決として、外国人とフィリピンの刑務所を原則として分ける方針を取ったのである。

あれ?なんでルフィは「刑務所」なの?刑務所っていうのはフィリピンで確定の有罪判決を受けているってことでしょ?
日本人で頭のいい人なら気づくだろう。そして、看板の英語を読めば、そうではないと確信できるだろう。マスコミの間違いを指摘できるだろう。

その通りである。ルフィはフィリピンで刑務所になんかいないのだ。入管の一時勾留場所にいるのである。なぜか?

フィリピンの刑務所事情というのは独特で、いわゆる拘置所、交番、派出所、市警察、市の刑務所、州の刑務所に各自備えてある「いわゆる牢屋」は
全部一緒のゴチャゴチャ運用である。

なにしろレイプした犯人が、裁判中勾留する場所がないんで何年も自宅放置、なんていうことが起こり得るのがフィリピン流だ。
「捕まえておく場所が無さすぎ問題」が深刻なので、牢屋があったらとりあえずどこでもいいというのが、現在のマニラである。

だから逮捕されたら、未決囚でも場所の都合で刑務所に行ったりするので、場合によっては逮捕されて一か月くらいで死んじゃいましたwなんてことがある。

アッ!刑務所内で死んじゃったwなんてことは、比では毎日あるようなものなので誰も何も気にしないしニュースにもならないのであるが、
外国人だけ事情が違う。

当然「どーなってんだよ!オイ!俺らの国民死んじゃっただろフツー死なないだろ?なんでだよゴラァ!」・・・と、
全権特命大使閣下の名前で問い合わせが来るのでうっとおしい。

待遇改善しろとひたすら言ってくる中韓!人権人権と念仏のように唱えてネチネチ言ってくるEU!
そして二大援助国日本!アメリカ!あぁウザイ。マジウザイ。

「サァー?どーしてなんでしょうね?死んじゃいましたゴメンちゃい」と、いつまでもすっとぼけられなくなってきた。

比政府はもう外人専用待遇の施設を別に作ろ!という方針としたわけである。
つまり最初っから特別待遇!外人専用牢屋と書けば分かりやすいだろう。

今回登場するビクタンは、「そういった施設」である。

前置きが長くなったけど、ルフィがいるのは、その「ちょっと人権が守られた刑務所(のような場所)」という理解が正しい。
ここは一応入管の施設ということになっているけど、外国人犯罪者は全員とりま出入国管理法違反(目的外入国)なので、とりあえずここに移送される人が多い。

わたしたち日本も含め、別にフィリピンがフィリピン人をどのように扱おうが、究極は内政なので知ったこっちゃない。
でも俺ら外人はフィリピン人のように取り扱ってもらったら困る、ということで、区別されたというわけだ。
だからルフィも区別されてビクタンにいるわけだ。

 

ルフィの「引渡延長策」は使い古された手

報道では「ルフィは別件で事件があるので引き渡しが遅れる」と、まるで凄い知恵者のように報道されているけど、これは全くの間違いである。
これは随分前に開発された「強制送還防止策」新しい話じゃない。
古くは覚醒剤密輸、国際指名手配となった日本人が、刑事事件を自作自演することで比政府を使って送還拒否を何年もやっていた件を
本人自らが日本のテレビ番組で詳細に話してしまったので、みんなその手口を使うようになっただけのことだ。比界隈では有名な話である。
ルフィも、誰かから知恵を付けられただけだと思われる。別に「真新しい、法の網をかいくぐる新発見」ではない。古い手である。

 

フィリピンのオレオレ詐欺は少なくても数年前から活動していた

これは私が直接会った日本人から聞いた証言だ。マニラでオレオレ詐欺をしていた日本人らが一網打尽にされた件である。
彼らは日本語話者を堂々と求人していたので、何も知らないマニラ在住者が『オッ求人あるやんけ、応募したろ』と面接にいったらオレオレだったということだ。
その人はちょっとオカシイと思う位に悪を憎む人だったので、当然それを突っぱね、あいつらはオレオレ詐欺だと触れ回った。
(もしかしたらそれが逮捕につながったのかもしれない)
それがホテルの一室で行われていたことからしても、彼らはマニラに何のコネも無いド素人集団であったことがわかる。

刑務所の携帯は「特権」じゃない

日本のマスコミは「ルフィは賄賂を送って携帯を手に入れ云々」と、まるでルフィが大金持ちで、看守をお金の力で操っているかのように言ってるけど、これも間違い。
フィリピンでは、囚人が携帯をもっているのは禁止ではあるが、それほど難しい話ではない。それに外部との電話自体はできるようになっている。
(※電話をするという行為自体は、海外の刑務所では許されていることが多い。海外ドラマでもよく出てくるシーンである)
既婚者の場合に限るが、夫や妻が面会にいって、個室で愛を確かめ合うのは「当然の権利」くらいの話となっている。(建前上は禁止)
逆に日本のほうが人権無視と指さされる程度の話だ。フィリピンは緩すぎるけど、日本はキツ過ぎるともいえる。
フィリピンでは、刑務所での「外部交通」は何十年も前から問題になっているけど、これは絶対に無くならない。

 

フィリピンは犯罪逃亡しやすいという茫洋

タイでもフィリピンでも、警察へのチクリは住民の通報からで、それに遅れて日本から情報が入り、踏み込まれて御用となっている。
「フィリピンは緩い!」なんていっても、それはフィリピンを少しでも知っている人の手引きなり、情報をもっている人の段取りがあって成立する話だ。
マニラだからバレない!というのは間違い。マニラというのは首都である。少なくても建前を重んじる国家警察があって、大使館も全部市内にある。

極端なことをいえば日本であっても、東京の皇居付近と、離島のナントカ島とでは、治安に係る人員も配置も装備も意識もまるで違う。
本気でフィリピンに逃げてきている日本人は、マニラを離れた田舎にいることが多い。

 

なぜフィリピンの汚職が無くならないかという根本的な話を誰も知らない

このルフィの話で「フィリピンの刑務所では賄賂さえ払えばなんでもできる!」「だからマニラは犯罪逃亡先なのだ!」と大声を上げる人たちがたくさんいる。
まるで鬼の首を取ったように『フィリピン=犯罪逃亡先』と決めつけ、マニラに住んでいるというだけで、なにも変わらない同じ日本人を指さして悦に入っている人らがまた湧いてしまった。

わたしたちはもう言われ慣れているからいいけど、それにしてもどうしてフィリピンの汚職は無くならないのかという根本的なことを指摘する人がいない。

日本人の場合、公務員となったらどうであろうか。「公務員になれたんだから、真面目に任務を全うしよう」と思うだろう。
ところがフィリピンの場合「首になるかも知れないから、在職中にできるだけカネを稼ごう」という人が多い。ここが違う。身分保障が薄いからである。
特に地方公務員の場合、選挙結果によっては『役所総入替』ともなりかねないので、稼げるだけ稼ごうと思う人々が一定数出てくる。

 

日比に犯罪人引渡協定は無いと騒ぐバカ

さて話を戻そう。現在ビクタンにいるオレオレ詐欺集団は日本に移送される手続きをしているわけだけど、これが引き渡しじゃなくってなんなのか?
もはや日比の警察の現場では、実質引き渡し条約に近いことをやっていて、うまくいっている。今回のケースを見てみよう。

まず一網打尽になった際、フィリピン永住権を持っていた人は釈放された。これはどうしてかというと、現地で「採用」されたバイトだったからである。
日本なら容赦なく全部捕まるだろうけど、捕まえても小物である。巨悪ではない。前述したけどマニラというのは捕まえておく牢屋さえも不足している事情がある。

しかもウルサイ外国人であり、永住権(多くは婚姻VISA持ち)であれば、外人といっても最も親近感を得ることが出来る人々だ。
(日本でも、日本語を話せて日本人と結婚している外人なら、仲間意識を持てるだろう)
このあたりはフィリピン共和国という独立国家の司法警察の判断なのでどうにもならないし、実際その通りアルバイト感覚の駐在員だったんだろう。
記録はされるけどそれだけ(フィリピンにおいて記録に残すというのは、書類の山に埋もれることと同義である)で済んだオレオレも、多分数人はいたんじゃないかな。

捕まったのはエントリービザ(入国時に貰えるビザ)や、エントリーの延長ビザくらいのひとだったんじゃないか。
おおよそ入国理由の不明な人らだろう。

このあたりの人を国家警察は日本に身分照会をしたはずである。おそらく「VISA持ち」のひとは身分照会されてないんじゃないかな。

照会されたひとらは、ボロボロとクニで余罪が出てくるわけだ。(なおPNPと桜田門は指紋情報を普通に交換しています)

PNPと警視庁はツーツーである。仲良しこよしである。
桜田門が「あざーすw捕まえといてww」と言えば、PNPは「らじゃーwww」ということになろう。

日比の国家間では、いまだに犯罪人引渡条約はないんだけど、日本はそもそも二か国としか条約を結んでない。
それはなぜかというと、その必要がないからともいえる。日本との友好関係からして、「実質引渡ししてもらえる」場合が多いからだ。
フィリピンもそのうちのひとつである。

それを「ルフィは日本人だが、日比との間に条約がない。比の司法省がナンチャラ」なんていっているマスコミは、少し勉強したほうがいい。
下手に国家間の条約が出来てしまうより、途上国ならいっそ条約がないほうが日本側が動きやすいということもある。犯罪捜査というのは得てしてそういうものである。

ルフィはなにも悪いことしていてない?

ビクタンにいるルフィらは、国際電話でオレオレをしたり、強盗をラジコンしたりしていた。
でもそれって、なにかフィリピンの法律に違反したわけじゃない。オレオレのマニュアルがあった!というのは強い証拠だけど、海外での話である。

当たり前だけどフィリピンというのは日本じゃない。

比の捜査員は、わたしたち日本語の読み書きは全く出来ないのだ。全く一文字も読めない。言葉を理解することもできない。
出来たとしても記録に残しているとは思えない。

ひき逃げ事件があったとして、警察すら来ないことがあるのがマニラである。正直いって、日本にいくら電話をかけていたといっても証拠があるわけじゃない。

(2)に続きます

 

 

比在住者から見た「ルフィ」事件(2)