マニラの中の懲りない面々

昨日の記事が、ブログ解説以来のアクセス数を記録したため、機嫌よく第二弾を書きたいと思うのであります。

マニラに来る人よもやま話。ほんといろんな人がいる。この手の話、わたしかなり経験したほうだと思う。
というのは、以前私が勤めていた会社は「日本から空港に集合して、フィリピンに連れて行くところ」から「最終日NAIAまで見送って任務完了」という
性格の業種で、わたしの部署は一種の旅行サービス業に近かった。

—ので、それはそれはもう、濃~い人たちと同行することが多かった。

業務はかなり忙しく、私がマニラに入国したら、まずやることは次の飛行機の予約という風だったので、この時代は文字通り、マニラと日本を飛び回っていた記憶がある。

今日はその中の、ほんの一組を書こうと思う。一組だけでも記事が一回で書ききれない。まぁ今日もお付き合いくださいなのである。

恐怖の酒豪軍団を紹介しよう

アテンドの中で凄い酒豪軍団がいたことがある。

もうとてつもなく、ウワバミのように酒を呑む団体で、それはもう・・・大変だった。それしか語彙が出てこない。
なにしろ会ったときから酔っぱらっている。(日本の)空港でパスポートは落とすわ財布は落とすわ、そんな人らが何人もゾロゾロいるのである。
服装は上から下までベルサーチ的ななんかの服装。良くてヒョウ柄。黄金聖闘士ばかりである。

そして全員中小企業の社長。ほとんど初海外である!!
この連中をアテンド出来るのはキミしかいない!ということで、当時直々に仰せつかったのであった。

にしても濃いなんてもんじゃない。会って1時間でヘトヘト。搭乗させるのも大変だった。
「エッ・・・この人らとこれから数日間一緒にいるの・・・・?」もう問題が起きないほうがおかしいのである。

日本側の入管を通って出国すると、いつのまにか免税の酒を買って、開けて飲んでいる。
免税の酒を買ってすぐラッパ飲みしている団体なんて、いまでもこの軍団しか経験したことがない。

機内の酒はタダ!?

もう全員、乗る前からべろんべろんである。ま、ここまで酔っぱらったなら、機内では寝てしまうであろう  と思っていたが甘かった。
なんせ国際線の酒はタダで飲み放題である。(いや飲み放題じゃないんだけど・・・)
しかもマズいことに、席が後ろだったので、簡単にいえば機内で宴会がはじまってしまったのだ。それ以外書きようがない。

この団体、免税店で買ったウイスキーだけでは足りず、機内で「スッチャーデスさーん!!」なんつって、ビールビール等と連発しているのだ。
そしてなんと、ついに機内の酒が切れたのである。言っておくが、機材はボーイング747という、世界最大級のジャンボジェットであった。
(もっとも、機長命令で「もう酒を出すな」と言われたのかもしれないが・・・)

 

トイレでタバコを吸う

私は「穴があったらナントヤラ・・・生きててすいません。生まれてきてすいません」と思いながら、一秒でも早く到着を念じた。
団体の入国カードを代筆するからと言い訳して、席を移って疎開したんだけど、やっぱり目を離してはいけなかった!

ビジネスクラスを覗きにいくくらいならまだいい。なんと代わる代わる機内のトイレでタバコを吸い始めたのである!!

当然キャビンクルーにバレたのであるが、当時はまだなんとか許してもらえた時代だったので助かった。
(もっと昔は機内でタバコが吸えたので、知らずに吸う客もわずかながらにいたのである)いまならニュースになりかねない。

 

不安しかない

このひとたち入国できるんだろうか・・?会って数時間でコレである。これから波乱が起こらないワケがない。
そもそも泥酔状態の場合、入国拒否される場合もある。いや、この現状では、「場合がある」じゃなくって場合である。
ただしカネをたんまり持って来ていることは、出国時の財布騒動で知ったので、ま、最悪ナンチャラで解決すっか!と気軽に考えることにした。
(※当時の比入管は裁量入国が通りやすかった)

客の機嫌を損ねるなど、サービス業では禁忌である。酒は人類の友である。友人を見捨ててはならないのである。
それに、もう起こってしまったことである。集合したときから酔っ払いだったんだからオレに非は無い。

 

なんだかんだ到着

遅延は無かった。良かった。—ハイ外国である。しかもマニラである。

この天下無双の酔っぱらい集団でも、さすがに少々ビビるだろう。もう110番したらお巡りさんが飛んでくる国じゃないのだ。
魑魅魍魎が蠢くマニラである。NAIAのムアっとした気候と独特の香り。銃を持ったガチ勢の警備員・・・NAIAは一番強く外国を意識する場所だ。

ここで手のひらを反してビシバシやったほうがいいかな?いやー客は客だしな。なんて思っていたら・・・

すれ違う人全員に(本当に全員に)「ハロー!ハロー!!」と声をかけていたのである。
ほとんど無視されていたが、ハローと返事してくれた人には「イエーイ!!!」なんつってハイタッチしているのだ。

「二日酔いのムカつきにィ?」社長の一人が私に言葉を投げてきた。ハ?と言ったら殴られた。
「ソルマックだろ!!なァ?!もう一回!!『二日酔いのムカつきにィ!』」ソルマック!!「イエーイ!!!」
「飲み過ぎシール、貼られたら?」ソルマック!!!あれ?ソルマックだっけ?

とにかくソルマックと叫ぶまで許してくれないのである。もうメチャクチャである。

ああ。どうしてNAIAの廊下はあんなに長いのだろうか。『酔っ払いに絡まれた際、NAIAの廊下は長すぎる場合がある』
わたしのフィリピン辞書に、また新たに書き加えられた経験であった。

この時点で私は悟った。「このひとたちにおとなしくしてくれというのは無理だ」ということである。
マニラだぞ!海外だぞ!治安がナントカ!言ってハイソウデスカという人たちじゃない。

普通のひとは、何も言わなくっても、マニラに到着すれば、それなりに緊張するものだ。
それが全くない。ゼロである!こんな人いるのか?!いるのである!!!

 

こうなったら方針変換である。一緒に楽しんじゃう。これしか道は無い。
いつのまにか頭デッカチ人間になっていたのは俺のほうかも知れない。

この連中は勇者である。ただし石器時代の。
でも新鮮なことは新鮮であった。ある意味、愛すべきバカである。

 

さて、いよいよパスポートコントロールである。ここは一番シャレにならない。
改めて「お客様」を振り返ると、もう見ちゃいけない人々の集団でしかないのである。母親が黙って子供の手を引っ張って距離を取っているのである。

これはマズイ。マズイですよ。この連中を引き連れて入国できないとなればワイの責任になるのだ。どうしよう?

わたしは全員のパスポートを回収すると、入管職員と一言もしゃべるなと厳命した。これもう一括入国させるしかないなと思ったからである。
よくオトーさんが、家族全員分のパスポートをドサっと渡して入国しているシーンがあるけど、もうそれしかない。アレをやることにした。
受け答えは全部ワタシが行って、入国スタンプを連発で押してもらおうという作戦である。

個別で質問などされたら、下手すると、いや下手しなくても入管職員に絡むであろう。いや間違いなく絡む。
たった今目の前で隣の人に「あなたはテニスをやりますか?わたしは、バスケットボールが好きです!」なんて話しかけているのだ。

わたしは、いかにも団体客を連れてきた旅行業者といった風で、シラっと入管職員にパスポートと書類の束を渡した。
振り返ると、なんと!あの泥酔軍団が紳士になっているのだ。思わず「エッ」と声がでたほどである。

なんというか、さすがに中小企業の社長連中である。手に持っていた酒瓶も、いつのまにか消えている。少し見直した。
彼らは普段、何十人もの部下を束ねて商売している人たちと聞いていたのを思い出した。

しかし入管にはバレていた。騒ぎ過ぎである。要注意ということで連絡がいったようだ。
でも全員ほとんど初海外なのが幸いした。機内でハメを外した程度のことは、「ままあること」らしい。
さすが中韓国籍入国の多い国である。あーもー助かった!

ま、結局団体入国は出来ず、ひとりひとり顔とパスポートは照合されたのであるが(当たり前だ)なにも質問されず、全員入国することができた。

ハァーーーーーーー・・・・入れたァ・・・・

深夜ではあったが、一瞬、雲一つない青空気分になれた。

もう私はヘトヘトである。ひとりひとりパスポートを返却しながら、会社に連絡して援軍を呼ぶことにした。
コレ無理!絶対無理!助手がいるのである。だって半日でコレである。しかも半日は日本であった。これからマニラでどーなんの?
旅程はタクシー移動であったが、明日いや今日これからすぐに、必ず団体バスが必要なのである。どうしても絶対に!!

とにかくホテルで寝かそう。まず連中をおとなしくさせないとどうにもならん。ってゆーかタクシー分乗でホテル?
え?どうすんのこれ。まあいいや外に出よう。なんなら客引きのデカイハイエースでも貸し切ろ。どうせ800ペソくらいだろ。いいよもう払うよ。
どうせ俺が払うカネじゃないし不可抗力だ。これからチェックインして寝かせるまで二時間コースか?4時間も寝れないかも・・・
もういい移動だカネで解決してしまおう。それより人員だ。できれば2人欲しい。そしてバスだ。少なくとももうひとりいる。外部から人呼ぼうか。

わたしは、タクシータクシーと言って客引きしている「あの人ら」に、ハイエースを数日貸し切り交渉をすることにした。嫌だけどそれしか手がない。
まずはホテルに行って、作戦の立て直しだ。大体何時間寝れるのか。もう集合は11時にしよう。朝食なんて知ったことか・・・・

 

全員が乗れる車を手配し、ヤレヤレ座席に着いた。

と、ある社長が第一声で、全員の総意であるかのようにこういった。

「カジノ行きたい」