ぜったい無茶な事業相談をしてきた人らの話

フィリピンで一攫千金など絶対に無理である。しかし無理が通れば道理が引っ込むのである。
今日は絶対に無理な事業相談をしてくる人らの話をしよう。いろんなひとがいるのである。

いきなりアブナイ

フィリピンで飲食をやりたいという話があって、会うことになった。この手の相談は好きなのである。
来たのは仲良し男性3人組。3人かぁ・・・

わたしはこの時点で、失敗するかも知れないという分厚い雨雲を感じた。事業相談というのは基本一人が来るものである。
フィリピンのこともよく知らない三人が共同出資・・・これは下手すると「巻き込まれる系案件」である。

資本金はあるのかと聞くと、それはたっぷりあるという。出所が良く分からない現金だった。
誰がやるの?というとアヤフヤ。一体誰が現地で飲食をするのかも決まってない状態。そもそも飲食ってなにやんの?それも決まってない。
相談を受けている間も、中座して別件で携帯で話しこんでいたりする。その内容も出資だ格闘技だ芸能だと話が飛びすぎて理解できない。

それでも男三人、力を合わせてマラテでラーメン屋でもやるのなら、まだ話は分かるけど、そんな感じじゃなくって、自分らはお金を出すだけだという。
事業計画書も無い。いったいなんの相談なんだろうか?まったく実態が見えないのだ。

悪いけどわたしは途中で帰った。こういう人らと仲良くなって、いままでロクなことになったことがない直感がしたからである。

 

飲食止めてカラオケに方向転換

その三人組は日本に戻ったんだけど、何か月かして、相談に乗ってほしいという。私はまた会うことにした。

すると飲食の話は無くなり、今度はカラオケ店をやりたいという。ほほう。

少し具体的になってきた。カラオケ屋なら仕入れが無いのがいい。日本の倒産品を持って来て並べておけば、メンテはともかく客も来るかもしれない。
「マラテで本格的な日式カラオケ」は、KTVに行きたくない人が来る可能性は大いにある。ちゃんとやれば成功するかも・・・?
デカイ箱がマラテに出来たら、パーティ需要も誕生日も営業かけられるし、日系企業の忘年会なんかも引っ張ってこれるしワリといいのでは?
7年くらいで回収を目安として・・・5年、いや3年回収も夢じゃないかも?KTVと提携して紹介し合うのもアリだな、うーん。

面白そうかな?と思って話を聞いたんだけど、三人の話では、まず女性従業員の面接がいつになるのか!という話だけだ。
いや場所は?家賃は?予算は?席数は?什器は?営業時間は?路面なの?空中なの?防音だって多少はあるぞ。フードはヤッパリ日本橋亭から引っ張るのかレンチンか?
—決めることはたくさんあるはずだ。カラオケビジネスだからといってナメてはいけない。

パッと考えるだけでも相当に忙しくなる話。これにマニラの許認可や書面も絡んでくるとなるとひとりでは難しい。
それなりにノウハウもあるし、出だしが肝心。最初からシッカリやらないと・・・スタートアップで四人くらいは欲しいところだ。

そうだ、開店時期はいつごろ想定なんだろう。
やるならやるで、現地マネジメントの半年契約くらいなら面白そうかなと、ほんの少しでも考えた私は馬鹿だった。もう事業の体じゃないのだ。

 

それはマルマルさんのコネがあるからやってもらう
そっちはナントカさんのKTVで機材が余っているから譲ってもらう
日本人従業員のVISA、ああ入管にコネがあるから

一時が万事こんな調子なのだ。そのナントカさんって誰なのよ?じゃあ打ち合わせに連れてきて欲しい。この場にいない人のコネの話してもしょうがない。
「とりあえずさぁ、女性従業員の面接だけ先にやりたいよね」ギャハハハハ!!!

真面目に相談に乗って損した。ワイはまたもや中座したのであった。

 

三回目の相談

ついに私は、このズッコケ三人組からカネを取ることにした。相談一回5000ペソである。それでいいというので三回目の相談だったのだが・・・
なんと、空港からポリスパレードで来たのである。(NAIAから白バイ先導で来ること)いや一体何しに来てるんだ?本当に・・・

今度の相談は業務用冷蔵庫の販売であった。なんだそりゃ?山師然とした内容に、わたしはもう言葉を失ってしまった。
いやカラオケ屋の話はどうなったのよ。
少なくとも、事業をやりたい、海外でチャレンジしてみたいと相談に来るひとというのは、それなりに真剣に相談にくるものである。

相変わらずヤル気はない。いや、単にマニラで遊びたいから来ているだけのオジサン三人組なんじゃないか?
国で言い訳するために、適当な事業話をしているんじゃないか・・・そもそも何しにきてるんだ?この人たち。

三回目となるとわたしも慣れてくる。適当に大きな話を聞いているだけで5000ペソ貰えるならそれでもいい。
それにしても気になる。いったいこのひとたちはなんなのか・・・・?へんに羽振りがいいのだ。5000ペソ出せといったら円で10万円もらった。—何故?
しかし10万は大きい。これまでのアホらしい相談分も全部回収できた。相手して良かった。
そして冷蔵庫の話も、当然ウヤムヤで終わったのである。

 

四回目は無かった。というより、三人組は日本で内部争いがあったらしく、けんか別れしたようで話はそれで終わった。

 

わたしはこの三人を忘れていたんだけど、ふと思い出して「以前こんな日本人にあったことがある」と酒の席で話したことがある。
するとその手の話に詳しい人がいて教えてくれた。その3人は「商材屋」じゃないかというのだ。

商材屋とはなにか?

商材屋というのは、海外での儲け話を日本に持ち帰る人のことだという。だから事業の実態など無くてもよく、写真や書類があればいいのだという。
ネットワークビジネスで一山当てた人らがやることが多いらしい。
昔は石鹸や美容系が変わっただけで、今では仮想通貨やサブスク系になっている。

日本人は「海外投資」となればとりあえず50万、100万くらい出す人はいる。20人も集まれば、大したお金になるわけだ。
ネットワークビジネス系は、若い人に集金させて名義も集めるので自分は傷つかない。

フィリピンでは、お金を出せば市長室で握手をすることもできるし、PNPでそれらしい写真を撮ることなんて簡単に出来る。
わたしは現地の事情を教えるという「情報の仕入れ先」のひとりだったのだろう。

オチ

この三人組のひとりに、帰国したとき会ったことがある。私は答え合わせをしたかった。「なにやってるひとなのか?」である。日本で嘘はつけない。
答えはビンゴである。やっぱりネットワークビジネスをやっていた。やっぱり!!アタリであった。

ネットワークビジネスというのは無名なものも沢山ある。その人は、ようやく自分のピラミッドを構築したという人だった。
下には何千人か持っているので、それなりに収入はある。一人年間一万円取ればいいんだから。

その人は、組まないかと誘いをかけてきた。ピラミッドの二番目に入れるというのである。
商材系というのは売るものによって、化けるか化けないかが違うらしい。海外商品というのはそれだけで熱いらしい。そっちを担当してくれというのだ。

誰にでも言っていることだろうと判断したので断ったら「俺の誘いを断るひとなんてお前が初めてだ」等と能書きを並べてきた。
いや私はネットワークビジネスを否定はしないけど、応援して一緒になるなら実業のほうがいい。
マニラに商材探しに来ているようじゃセンスが無いし、態度にスキがありすぎる。わたしに見抜かれるようじゃオシマイだ。
儲かるかもしれないけど、おててにワッカは勘弁である。

なお、会話の途中で、ピラミッドの2番目から10番目になったw

呆れた。引き受けてもいない話の、まだ組織もされていないネットワークビジネスで、
上位権利の切売をするにあたって、やってもいないうちからクチ約束レベルの話を、欲かいてどうすんの?

男として器が小さすぎる。こりゃあダメだ。ネットワークビジネスではそれでもうまくいくんだろうけど、商才がない。才覚がない。男性としての魅力がない。
わたしは、嫌なヤツと商売をしない権利があるので、それを行使することにした。
アンタ商売やったことないだろ!と言いたいのをこらえて、わたしは何度目かも知らない中座をしたのであった。

 

人生いろんな分かれ道があるけども、この誘い、受けていたらわたしはどうなっていたであろうか?
もしかして案外うまくいっていたのかも知れない。でもこの件は全く後悔してない。自分でも忘れていたほどだ。

いまはどこでなにをしているやら?マニラには来ていないようであるが。
名刺を整理していたら、当時貰ったヤツのが出てきた。まだ営業しているんだろうか?ググってみたい欲望に駆られた。

いや、止めておこう。わたしと彼らとは住む世界が違うんだから、ここでエゴサしてなんになる?

 

 

お金