フィリピンとボルテスVのはなし

フィリピンでのボルテスV人気について語る人々がいるようだ。かなり話題である。
なんとGMAx東映で、正規のボルテスVをフルリメイク版で放送するというのだから、フィリピンのボルテスV愛は本物だろう。

以前わたしの住んでいた街で、ビルの壁面全部をボルテスVポスターにしたモールがあった。さすがにノケゾった。フィリピン人にとってボルテスVは特別だというのは肌で理解している。
本当に愛されている。ボルテスVのTシャツもたくさん売っている。それは認める。

だが日本の皆さん、ちょっと待って欲しい。このボルテスV情報は、かなりネット上の情報を切り取られ、都合の良いように加工されている感じがするのだ。

というわけで2023年一発目のブログ。今日のお題として、フィリピンとボルテスVとの関係について書きたいと思う。

 

 

 

フィリピンでは1978年に放送を開始し、最高視聴率が58%という爆発的なヒットを記録。1999年の再放送では世代を超えて再ブレークし、親子3世代にわたって人気…という日本以上に高い知名度を誇る。

マルコス時代に放送されたボルテスVは、フィリピン人の心の炎にガソリンをぶちまけたような効果をもたらした

ネットでは、こういう情報が溢れているが、本当は違う。わたしはボルテスVxフィリピンについては こじつけ、というか、後付けのストーリーだと思っている。

日本の感覚で「ボルテスVが流行した」はちょっと違う

日本は昭和でも多チャンネルである。ボルテスV時代であっても、日本には様々なテレビチャンネルや娯楽があったのは皆さん知ってると思うけど、当時のフィリピンというのはそんな状況ではなかった。今でも、放映権を得たスラムダンクやドラゴンボール、どらえもんが、何度も何度も、何度も何度も、もう飽きるほど、もうしつこく飽きるほど繰り返し放送されるのがフィリピンのアニメの特徴である。いまだにスラムダンクを放送しているのがフィリピンだ。もう何十回繰り返して放送したんだ?というほど何十回もやっている。同じものを見すぎて気が狂うのだ。

枯れ果てた牧草を、牛が何度も反芻するように、朝起きてテレビを見ると、流川と桜木がバスケをしているのがフィリピンだ。クリリンと悟空が修行しているのがフィリピンなのである。
もう何回見た?何十回みた?日本アニメ放送ありがとうだけど、フィリピン在住日本人にとっては胃にもたれる。もうご馳走様状態なのだ。

断っておくがスラムダンクというのは、フィリピンにしてみれば外国アニメだ。安い放映権といっても比のテレビ局にとっては、会議して議論して、スポンサーを説得して買い付けるわけだ。日本からどのアニメを買うかというのは、比のテレビ局にとっては大金が動く重要なことである。だから買った以上は元を取るまで繰り返して放送される。ゲップが出るどころじゃない。
次のセリフをタガログ語でなんていうか、暗記するほど放送される。どらえもんの秘密道具効果音は、フィリピン人にとってもニヤリとする着信音として使われている共通語だ。

 

2023年、30代前半のフィリピン人はキテレツ大百科を見ていた

日本の人気アニメなんて、ABS-CBNやGMA、チャンネル5といった、フィリピンを代表する大手メディアであっても、「オッ買ったろ」と気軽に買える値段ではない。
そもそも日本の特撮やアニメというのは内国用であって、輸出用ではない。

ところが日本の権利者は、一定のアニメを激安で輸出したのである。当時というのは、アニメは全部手作業で作られていたので、莫大な投資をしても赤字ということがよくあった。
日本アニメ黎明期にあっては、売れないアニメの投資を少しでも回収しようと、二束三文で海外に放映権を譲った事情がある。だから、「当時モノで日本で売れなかったアニメ」というのは海外では心の友になっていることがある。

試しに、いま30代のフィリピン人女性に「コロ助知ってる?」と聞いてみればいい。全員知っている。
ブラウン管のバランガイで、日本で売れなかったキテレツ大百科は、フィリピン人の心に根付いている。下手するとどらえもんより根付いてる。子供のころに見たアニメの影響というのは甚大だ。フィリピンでは「学校に行く前、キテレツ大百科をみてから登校した世代」と酒を呑んでみれば、キテレツ愛を受け止めるのに苦労する。
だって、ようやく分かり合える、オリジナル日本人と話しているんだから!ここでキテレツ知らないなんて言えば、結婚適齢期の女性に振られるかも知れない勢いだ。せっかく日本人なのに、これはもったいない話だ。在比邦人なら、キテレツは当然知っているとして、21エモンくらいはスラスラと語れるアニメ力があったほうが女性にモテる。以前紹介したけど、フィンランドで「流れ星 銀」が国民的アニメになっているのと一緒だ。

ボルテスVとマルコス革命は関係ない

ここまで断定していいのかと思うけど、おそらく関係ない。
ボルテスVというのは、正直いって日本でそれほど人気があったわけではない。コンバトラーシリーズの第二弾というだけである。
マルコスが放送禁止にした!というのは内容がそうだったというのもあるだろうけど、それより先にマルコスの政治的背景をよく知ってほしいと思う。

それより重要なことは、当時はまだまだアニメ自体が珍しかったということだ。フィリピン人にとって、ボルテスVは初のアニメ視聴経験という人もいただろう。そっちのほうが強烈だ。
絵が動く。今ではだからナニ?という話だが、2023年の今でさえテレビの無い家があるフィリピンにとって、ボルテスVはどれだけ衝撃的だったろうか。情報の無い時代というのは、今の若いひとには想像できないだろうけど(←老害的表現すいません)本当にそうなのだ。スマホどころか携帯もない。ほんの数十年前は、公衆電話もないという世界だったわけだ。テレビ自体が珍しい。チャンネルどうのこうのという話じゃなくて、テレビを眺めているだけで最先端の情報を仕入れることができて、周囲に自慢できたという時代があったわけだ。

ボルテスVのストーリーが民主主義革命につながったとは、正直思えないんだよね。一度ボルテスVのストーリーをしっかり見れば分かると思うけど、あれは子供向け特撮番組なわけで、あれで大人がマルコス政権打倒を誓うというのは無理があるし、マルコスが放送禁止にしたというのも限りなく嘘くさい。このへんしっかり検証してないけど、調べればソースは出てくると思うよ。おそらく別の理由で放送が中断しただけだと思う。

正直、ストーリーを追いかけている人は少数派で、どちらかというと、なめらかに動く絵に心震えた人のほうが多かっただろう。ボルテスVとはそういう時代に放映されたアニメである。
だからみんなボルテスVに全てを賭けて、やるぞ力の尽きるまで!と画面に食い入った、というのが本当のところではないだろうか。

ボルテスVはマルコスと関係ないところで比人を興奮させた

この時代、日本のアニメ業界は格安で放映権を世界に売るということをやっていた。理由は簡単で、採算が取れなかったからである。
アニメというのは視聴率が取れたんだけど、当時はあまりに手間がかかりすぎた。ディズニーのアニメ手法を見よう見まねで真似して、ようやくまともなアニメ「鉄腕アトム」が生まれ・・・というような環境である。日米はテレビで最先端のアニメを見ることができたけど、フィリピンなんて・・・もう街頭テレビの時代である。放映されても停電し、それでも次回を楽しみに人が集まるという時代である。ボルテスVは内容云々より先に、「アニメというものがあるんだ!絵が動く、まったく新しい表現があるんだ!」という驚きを広めたロボットアニメという側面があるだろう。

ボルテスVのストーリーが革命と関係しているから熱狂したというウソ

ほとんど全ての日本語ブログで、このような小題があるけど、わたしは嘘だと思う。何故なら、書いているヤツ全員、ボルテスV全40話見たことねぇだろ?という内容だからである。

わたしはアニメ、特撮大好きだからよーーーくわかる。

例えばウルトマランや仮面ライダー。ストーリーを追ってみている人何人いる?ほとんどいない。ゼロと言っていい。
一般の視聴者は、バトルシーンや怪人、怪獣、必殺技を見たいのであって、後ろのバックストーリーはどうでもいいのである。

日本人であっても、仮面ライダーは改造人間であることすら知らない人がメチャクチャ多い。でも幼稚園バスを襲う怪人の恐怖はみんな知っている。

アクションモノというのは設定、キャラ、おもちゃの売れ行き等々細かく見るのが通であるが、ストーリーというのはほとんど関係ない。
それよりカッコイイ変身ポーズのほうが何百倍も重要である。日本人ですらそうなのに、どうして比人が「ボルテスVはマルコス打倒~」となるのだろうか。
日本も比人も一緒である。ボルテスVが分離合体して、悪を一刀両断することに興奮したのである。実際ボルテスVのストーリーは複雑で、日本人がリアルタイムで全話視聴してもよくわかんないのである!ボアザン星人がどうのこうのと言われても、正直感情移入できない。オリジナルを見た私でさえ、ボルテスVがフィリピン人の心を奮い立たせ、エドサ革命につながったとはぜんぜん思えない。

令和の仮面ライダーじゃなくてもいい。ウルトマランじゃなくてもいい。平成でも昭和でもいい。
とにかくああいった特撮やアニメの「本筋ストーリー」を追って、理解している人というのは、見ているひとのごく一部なのである。

宇宙刑事ギャバンとシャリバンの違いを言えるひとはいるかもしれないが、ストーリーとなるとどうだろうか。言える人はリアルタイムのガチ勢しかいない。

ボルテスVについても全く同じである。フィリピン人にボルテスVのストーリーを聞いてみたらいい。誰も答えられないだろう。それが答えである。

マルコス政権が封印するほど政治的影響があったボルテスV?そんなわけがない。フィリピン人は、合体に興奮し、悪を倒す特撮に興奮し、毎週楽しみにしていたのである。それ以上のことはない。そして、特撮というのはそれが使命であって、それで良いのである。ストーリーは革命かも知れないけど、だいたい特撮モノなんてのはそういうニュアンスがあるもんだ。

ボルテスVを下手に政治的にこじつけ、まるで日本アニメがフィリピンの民主主義化につながったように語るのは間違いだ。普通に考えればすぐにわかる。

子供のころに見たアニメというのは影響がある。ボルテスVは比人にとっては大切なアニメであることは間違いない。
でも、メイドインジャパンだからといって、ボルテスVを神格化して「ドヤァ」というのは違う気もする。それに在留邦人ならボルテス一話でも見ろよな!?

 

GMAが全80話といってて、フィリピン在住日本人、みんな「そーなんだー」みたいな反応してるけど、ボルテスVは40話完結である。
つまりオリジナル改変の可能性が高い。ここをうまく料理してくれればGMAやってくれたなとニヤリなんだけど、おかしな改変は許されないのである。東宝は許しても在留邦人は許さんという気持ちで見なければならないのである。全80話と発表された時点で、これは在比邦人に喧嘩をうった、いや挑戦状を叩きつけたも同様なのである。比でオリジナルストーリーをやるのはいいとしても不安しかないのである。

しかし悲しいかな。フィリピン在住で、ここまで理解してくれる味方がどれほどいるだろうか・・・・
特撮系、ロボット系のディープ邦人は、いまだ出会ったことがない。ひとりでもGMAに監修に行って欲しい。翻訳ひとつでも違うのである。

あ。いちおう最後に書いておくけど、特撮系、ロボット系というのは日本文化そのもの。そのへん最低限見ておくというのは教科書レベルだかんね。
そのへん苦笑いでスルーしてる在留邦人は、即使える英単語1000!なんて捨てて宇宙刑事ギャバンを見るように。我思うにギャバンが小学一年くらいの基礎だから。