フィリピン困窮邦人に捧げるラプソディ(1)

昔と違って、情報化が発達し、日本に居ながらにしてフィリピンの情報を手に入れることも簡単になってきた。
中堅、初心者等という壁も無くなり、いまやフィリピン渡航者総ベテラン時代である。

そんな中で、フィリピンには困窮邦人がいる。よくドキュメンタリーになっているので知っている人もいるだろう。今日はその話。特に滞在について。

困窮邦人の人に会ったことがありますか?

困窮邦人として保護を求めるひとは、フィリピン全体で年間約200名ほどと言われている。物凄い数である。セブの領事館、マニラ大使館等に「助けてください」と言うのは、大使館側にしてみれば「ああまたか」と思われるほどの数である。週に数人来るんだから。困窮邦人予備軍を含めると、その数数千人もいるであろう。200人ということは、当然あなたの出身県の人もいるだろう。もしかしたら高校の先輩もいるかもしれない。それほどの数である。わたしたち在比在留邦人が、助けたくても助けられないほどの数がいるのだ。

不思議なことに、困窮邦人に求められるのはお金である。お金が無いとフィリピンを出ることはできない。困窮してるから助けてくれと言っているのに、日本はお金を作れという話をしてくる。自国民にこんな対応をするのは、先進国ではもちろん日本だけである。(普通は旅費を国費で出してあげる。これは仕方がないけど必要経費だ。自国民なんだから)

さて、困窮邦人の相談というのは、わたしも何度かうけたことがあるんだけど、私の経験上では、その人物というのは真っ二つに評価が分かれる。中間は無い。

1.ものすごく良い人で困窮してしまったひと

すっごく同情してしまうストーリーを持って、無一文になってしまった日本人というパターンである。比人から全財産を取られていることが多い。
一番多いのは、日本で恋愛してコッチで結婚して、家族にお金を取られるという典型的パターンである。普通この場合でもメシは食えるのだけど、運が悪いと結婚相手にはパートナーがいて、日本人は哀れポイ捨てされることになる。
だいたいストーリーは決まっているんだけど、そんなことは本人も自覚していて、本人なりに頑張ったケースが多い。しかし悲しいかな、異国の地では知り合いというのは結婚相手の身内しかいないので、何度も騙されてお金が無くなるハメになる。本当に全財産剝ぎ取られる。こっちの刑務所に入っている人は、これでキレて家族を殺したという人も何人かいる。

こういう人は日本に戻ればなんとかなることも多い。ほとんどなんとかなる。悲惨な末路の人が多いので、なるべく初期に声掛けしておいた方がいいと思っている。

 

2.悪いひと

困窮邦人(予備軍)で、絶対関わってはいけない人ら。私も心の底からウンザリしてきた人ら。

これを見分けるのは経験が必要だけど、とにかく関わってはいけない。「なにごとも経験!」そんな経験は要らない。切ったほうがいい。
高い確率でトラブルになるからだ。最悪死ぬこともある。同じ日本人でも、彼らは全く異なる価値観を持っていると思った方がいい。

一番良い見分け方としては、(日本人相手に)現金商売をしている人たちだ。

こんなことを書くと、まともにやっている人からお叱りを受けるんだけど、実際、困窮系老害日本人はこれをやっている。食べていくためである。
手作り弁当のデリバリー、タコ焼き屋、ジュース屋、日本のおかし、手作り納豆等々である。頑張ればワリと売れる。私たちは、生産者が日本人となれば無条件に信じるので(良いことだ)
これで食いつないでいるひとが多い。しかし日銭商売には波があるし、貧乏ほど小さいお金でトラブルが起きるものだ。借金している場合もあるので平気で嘘をつく。

こういう人たちは、まずVISA(※合法滞在の事)をもっていない。とっくに失効しているのである。「あんたナニVISA?労働?観光?」という種類の話じゃない。次元が違うのである。
いやVISAどころじゃない。パスポートすら持ってない人がワンサカいる。
だから帰国した写真等が、一切SNSに載ってない。帰れないからである。

だから見分け方は単純。3年以内に日本に帰国(出国)している人なら困窮邦人じゃない。目安は3年である。だいたい間違いはない。どんな理由があっても、何年も日本に帰らない人って、やっぱり不自然である。

まーーこの話になると長くなるので、いつか(2)で書こうと思う。

困窮邦人の集いがあるのだ

自分が困窮邦人(予備軍)となると、精神は非常に良くない。フィリピンという発展途上国で、明日を知れぬとなれば、毎日不安になるだろう。
マニラには、実は困窮邦人が集まるコミュニティがある。そこにはVISA失効者、パスポートなんてただの飾りなんていう兵(つわもの)が、毎週集まって傷をなめ合うという、強力なコミュニティがあると知ろう。

なにしろ強固だ。全員後ろ暗いので、下手に話すことはない。コミュニティに入るだけでも一工夫、フタ工夫いる世界である。
しかし入ってしまえば、マニラでカネを稼ぐノウハウ等、門外不出の驚くべき知恵を教えてもらえる。かなりディープだ。仲良くなれば秘密を共有し合う仲間である。

外国に暮らす同胞同士というのは、普通このような人たちと一般の人たちは溶け込むのが普通だ。けど、日本人社会でそれは絶対にない。
日本のルールは海外でも厳密に適用されるからである。海外にいても、日本人社会では非合法滞在の人はコミュニティから100%排除される。

でも、フィリピンの場合、はじき出される人自体の数が多いのだ。5人10人という数じゃない。年間何百といるのだ。大使館に駆け込まない人も相当いるだろうから、軽く何千人単位でいるわけだ。何千人という数を想像してみてほしい。学校の体育館の全校集会を思えばいい。それだけの数の人が生きて苦しんでいるのである。

だから、その苦しみを分かち合うグループなんかも裏にある。無い方がおかしいのである。詳細を書くことは差し控えるけど、マニラの中心地にある。ただし探さない方がいいだろう。ここに入ると、死ぬまで日本に戻れない。悪影響を受けて、人生を無駄に過ごすことになる。

VISA切れで恐れることはないのだ

困窮邦人になる人が、もっとも陥るのはVISA切れ(合法滞在する日付が切れたこと)だ。
「ナニVISA」でもいいから、持っていれば邦人社会では合格だけど、持ってないとなると人は離れる。当たり前だ。VISA失効してほったらかしの人と付き合う人はいない。このへんは日本人社会で、さりげなく聞かれるマスト質問である。VISAの種類の嘘を付くのは罪がないけど、VISAがないというのはあり得ない。イケメンでも付き合ってもらえないのが外国生活流だ。合法滞在してなきゃヤなのである。

さてVISAが切れるというのは、一般的な常識として外国ではあり得ないことで恐怖しなきゃいけないことだけど(VISA切状態で逮捕されても文句はいえない)
フィリピンでは違う。ここは念を押しておきたい。切れても大丈夫だ。逮捕は無い。

フィリピンでは、VISAが切れても遡って罰金を払えば、まったく合法滞在と切り替えることができるのだ。
困窮してくると、VISAの期限切れというのは、だんだん増えてきて何か月にもなる。正直いって、一年未満であれば、素直に出頭すれば月500ペソのペナルティだけで済むことがある。
悩むより先に、カネを作ることに全力を尽くした方がいい。エージェントを挟んで本局にいけば、おそらく問題なく終わる。一年以内なら、ウッカリ失効的な処理で終わらせることは可能だ。
(エージェントの腕による)

一番めんどくさいと言われるのが、滞在5年以上10年未満のVISA切れだ。5年というのは長い。エージェントにカネを積むとなっても、50万ペソ以上かかるだろう。いや70くらいかかるかも知れない。このくらいになると、円でいえば100万円以上のお金が最低かかる。おかしな賄賂や手数料を抜いても、実費の延長代だけでスゴイ金額になるのだ。

それを知っているから、困窮邦人予備軍の人は、もうVISAは忘れて、バレないように生きていく道を選択してしまう。それは間違いだ。正当な理由があってVISAの更新ができない場合認めてもらえるケースもあるので、なるべく早く帰国して、再入国する道を探ったほうがいい。最後はどうせバレるのだから、ややこしいことであったとしても、道を探ったほうがいい。

具体的には、違法滞在が一年を過ぎると「二度と日本の地を踏めない落伍者」と考える人が多くなってくる。いっそ日本人観光客でも騙そうか。騙されるほうが悪いのだ、等と空港でウロつくことになる。そんなことはないのに、である。

こういう情報は、インターネッツが発達しても書く人がいないので表にでない。だから俺が書いてやろう。そんなことはないのでちゃんと書類を揃えたらいいのである!

じゃあ10年失効してたらどうすんの

私が相談にのったひとは12年VISA失効してた。もちろんパスポートも無い状態だった。このレベルになってくると、もはやエージェントではどうにもなんない。賄賂でもなんでもパスポートだけはどうにもならんのである。
しかし有利な点がひとつある。10年超えともなると、日本大使館もなんとかしなきゃいけないという感じで動いてくれるのである。

まず入管が言ってくるのは、失効後1200ケ月分のVISA代を、ペナルティ込で全額払うことである。気が遠くなる金額だ。逆にいえばそれ払えば済むのかよ!とツッコミも入れたくなるけども、まずこの金額が土台となる。もちろんそんなお金は用意できないので、免除をお願いすることになる。

ここで一番いいのは、当然フィリピン人と結婚していることだ。3年前に比人と結婚していて子供もいます、生活の実態は比にありますとなれば、入管はOK出してくれるだろう。そのくらいの「強い理由(おそらく最強)」があれば大丈夫だけど、普通そんなもんはない。

ここで大きく二つに分かれる。罰金を全額払うかどうかだ。大使館経由の場合、罰金を払わなくても、渡航費さえ準備できれば強制送還で日本に戻れる(比には戻れない)
罰金を払ったとしても、VISAのステータスは制限される(ひどい場合は、延長できない=結局帰国となる。)ただし払った場合フィリピン再入国の道は開かれる。日本人はエントリービザが貰えるので、リストに載らなければ30日滞在できる道が開かれる。(パスポートコントロールで引っかかるだろうけど、理由とお金次第で入国できる)

 

在日本フィリピン大使館が発行する観光ビザには理由があるのだ

フィリピンの観光ビザは簡単に取れます!という人は、裏を知らないのである。確かに簡単に取れるが、それはスンナリ入国できるひとだからであろう。
日本にあるフィリピン領事館や大使館が発行する観光ビザ。あれは何のためにあるのかというと、「入国できるかどうか分かんない不安な人」のためである。一般の人が申請するもんじゃなくって、フィリピンに行く前に、事前に日本で合否判断できるという理由があるのだ。有難いことである。

フィリピン大使館が事前に発行するVISAというのは、その種類がなんであれ、パスポートコントロールでは大いに効力を発揮する。なにしろもうVISAは発行されてんだから。
入管職員の判断以前に、滞在許可を得て飛行機に乗りました、というのは理由として強い。拒否されるのもあるだろうけど、じゃあなんでVISA発行されてんの?と抗弁はできる。
日本でVISAを取るというのは、渡航前の安心を買うことなのだ。入国が不安な人は、先にVISAを取れば安心なのである。違法滞在をお金で打ち消した次の渡航なんかは、誰だって不安になるだろう。そんなとき、日本で事前にVISAを取っちゃう手続きは心の安心になるわけだ。

それでも困窮邦人を助けてた

実のところ、わたしは困窮邦人を助けたことが何度か(何度も)ある。その数倍イヤな思いをしているので、もう助けないと心に誓ったこともあるけど、都合よく忘れて、また助けてしまう繰り返しだ。助けるというのは、お金を渡すことじゃない(一応貸しということにしている)けど、就職の世話をしたり、方々に尋ね廻ったり、お金を作る知恵を授けたりということだ。
これで助かるひとは大体10%以下である。ほとんどの場合本人に助かる気が無いし、二回目からタメグチ、三回目から命令、四回目からカネ持ってこいという人たちだからである。
それでも根気強く困窮邦人を助けて帰国させたんだけど、今はもうそんなことはしてない。フィリピン流でいえば、マヤバンな年上に奉仕する精神力を、もう使い果たした。
個人ではもう充分やった。ひとが、ひと一人救うというのは大いなる善行である。それを何度かやったなら、もういいだろうと。所詮自分は全困窮邦人を救うことなどできないのだから。

それにしても思う。困窮邦人を救うのは、プロの救済者が必要だ。住んでいる日本人が善意で手を差し伸べるというのは限度があるし、やらないほうがいい。
何百人も相手にしている団体が、それこそ日本の援助でやるべきことだ。

困窮邦人にスポットライトを浴びせてドキュメンタリーを作る映画監督さんにいいたい。それを助けて疲弊している邦人というのも一定数居て、ワリと苦しんでると思うんだけどな?
だって困窮邦人ってのは自分の責任でそうなってるんだから不幸をまき散らしているわけで、それを助けて共倒れになった人のほうが不幸だと思うんだけど。