マニラ:タクシーの思い出(1)車を動かせないタクシー

タクシー記事を書いたら止まんなくなってしまったので、老害っぽくタクシーの思い出話でも披露しようかと思う。

わたしはマニラの白タクシーが好きである。前から公言しているんだけど、ほぼグラブは呼ばない。
スマホでポチポチやっている間に、目のまえのタクシーを捕まえて飛び乗ってしまったほうが早いし安い。改造メーター、ボッタクリタクシーかかってこいである。

わたしは舐めたタクシーに乗って「行先変更!MMDA本局!許されないよオマエ?」なんてやった事が何度もあるし、意気投合して二人でコンビニでビールを買ってマニラ一周ドライブをしたこともある。タクシーの運転手と話が盛り上がって仲良くなったことは数知れない。家に招待されたことも十度や二十度ではない。マニラのタクシーは、危ないヤツも多いけど、話せば楽しいヤツも多い。少なくとも1000回以上は乗っているけど、危ない思いは1.2回程度だ。

そんな私が思い出に残っている、愛すべきマニラ白タクエピソードを紹介しよう。

 

車を動かせないタクシー

その時、私は客をホテルから空港までタクシー送迎するという任務を仰せつかっていた。まぁ簡単な業務である。誰かがやらないといけない、ただの雑務(同行という)である。
マニラの白タクというのは、「空港まで」と言った瞬間に交渉制になるという困ったことになるのだが、多くの客は何でもいいから捕まえて、という要望になるので、私はまぁ400ペソくらいかなというソロバンを弾いていた。場所はネットワールドホテル付近であった。客には「日本円で1000円ちょっとです」といえば誤魔化せる確信があった。

捕まえたタクシーの助手席を素早く開けて、NAIA.,OK lang?等というと、若い運転手が何度もうなづくので、俺はラッキーと思った。(コイツ相場も知らないな)
トランクを開けさせレッツゴーである。

するとエンストである。そしてまたエンストである。そしてまたまたエンストである。車は50mも進んでいない。

ご存知の方もいると思うが、ネットワールドホテルというのはマカティとロハス大通りを交差する、マニラの中でも大動脈という交差点角に位置しており、警官もウジャウジャいる地域である。不審車そのものである。あそこの交差点で立ち往生なんてのはやったらアカンことなのである。

「なにやってんの?」と声をかける。メーターは押されていないが、それ以前の問題である。マニュアル免許保持者なら直感すると思うけど、「コイツ運転できねぇな」である。

タクシーはネットワールドから海側に100メートルも進んだ、お馴染みのUターンスロットんところで止まった。というより俺が止めた。

お前免許持ってんのか!と怒鳴りつけると持ってないという。ああそう。じゃあしょうがない。
別に免許なんか無くてもいいけど客の手前である。俺の不手際になってしまう。お前ちょっと車から降りろといって、運転手をおろして事情聴取と相成った。

話はこうである。

このタクシーは普段オヤジがドライバーをしているレンタルタクシーなんだけど、オヤジが体調崩したから息子の俺が運転している、一日のレンタル代が1000ペソするから走らせないといけない

 

という話だ。うん分かる。この手の話は何十回も聞いている。いわゆるタクシー小作農だ。
別にそんな事情、俺にとってどうでもいいんだけど、時間内に空港に行かないと困るので、メンドクサイから俺が運転する!お前は見てろ!カネはやる!ということになった。
よくもマニラまでたどり着いたものである。

そうして俺が運転席に乗り込もうとした刹那。

客がいつの間にか外に出ていて、会話を全部聞かれてしまったのである。

「あのー・・ボクが運転していいですか?」という。

ダメに決まっている。アンタなに考えてんですか?である。白タクに乗っちゃいけないという本社の命令どこいった?

しかし客の目は、少年のようにキラキラと輝いていた。

—無言である。このタクシーを捨てたら飛行機に間に合わないのだ。俺はカギをポーンと投げると、黙って助手席に乗った。

 

「だいたいオンナジマイニチ!それでまぁまぁそれなりOK!だけど、なんとなく空見上げちゃうんでしょ?」

マニラの白タクシーのハンドルを握った客は、hideのロケットダイブを歌いながらノリノリで二速発進をかましたのである。あー・・そんなキャラだったの?
もうどうでもいいわwwww

というわけで、NAIAまでの短い旅は、不良中年二名がSPEED FREAKS BABY ROCKET DIVE!タテノリでマニラタクシーハイジャックと相成ったのである。

 

空港に着くと、本当に感謝してもらえた。「いっやーーーーーー・・・・・・・・マニラでタクシー運転したなんて自慢できるわ!」
ありがとう!と、メチャクチャ感謝された。

 

実はこの会社。社長派と反社長派が真っ二つという状況で、ゲストは反社長派であった。だから白タクに乗ってはいけないという業務命令を、あえて無視したかったという事情があった。
それを踏まえて、わたしは「白タクシーに乗らないと間に合わない」という絶妙のスケジュールを立てていて、うまい具合にネットワールドで白タクを拾うというストーリーを組み立てていた。社命を無視した形であるが仕方ないという、日本的反抗なわけだ。こういうことは日本人のコーディネーターしかやれないので私がやったのだ。

でも、まさか反社長派が、マニラで白タクを運転するという前代未聞のことまですると思わなかった。これは社長に挑戦状を叩きつけた行為である。
わたしのギャラは当然社長から出ているので焦ったんだけど、ゲストは空港で私に報酬をくれた。「最高だったよ!動画も撮った!マジ自慢できるよありがとう!」

どうもわたしがお膳立てした空気になっているようだ。本当は偶然なんだけど。

なおその会社は、反社長派が勝ったので、私はすっかりフィリピン担当ということになっている。

 

交通