コロナで儲ける呪術師(好評記事再掲載)

いま、フィリピン全土で最も儲かっている商売とは、ずばり呪術師である。

ハ?と思うかも知れないが、実のところ呪術師はフィリピン全土に相当数いるのだ。外国人区域は知らないが、田舎のバランガイならひとりふたりは必ずいる。
元々精霊信仰、原始宗教という「フィリピン人本来の宗教」がコレだからである。

日本人が、神社や天皇陛下や日の丸の写真をなぜか破けないような感覚。比人の心の根底にあるものはキリスト教よりも原始精霊信仰にある。
フィリピン人なら、子供の頃病気したとき、親から手を引かれ、呪術師に祈ってもらった経験が誰にでもある。こういった原体験は一生根強く心に残るものだ。
実際、フィリピンのドラマには、呪術師やムルト(おばけ)は定番で出てくる。それほど共感を得られるのだ。

 

フィリピン人はクリスチャン!などと言っている奴らはまだまだ甘い。比人にとって、心から本気で信じられる神は、輸入モノの神ではない。ガキの頃から知っている、田舎の顔見知りの呪術師の祈りなのである。これは宗派を超えて信用されている。地球の歩き方や、るるぶには「フィリピンはキリスト教国で、カトリックが7割」と書いてあるけど、そんなのフィリピン人だって否定するだろう。私が体感した感じでは、カトリックはせいぜい3-4割くらいだろうか?比人は宗教欄にカトリックと書くわけだけど、それはあくまで統計上の話である。

 

マニラにいると分からないかも知れないけど、田舎にいくと呪術師と一般市民はよく触れ合っているのがわかる。病気になれば相談するのは、医者ではなく呪術師だからである。

といっても身構える必要はない。
呪術師というのは、クソ怪しい儀式はもちろんする(それは仕方ない)が、ある意味メンタルヘルスケアをしてくれる人という位置づけで考えたらいい。日本でいえば占い師のようなものだ。

まず、なにしろ安い!一回の儀式あたり、取っても50Pくらいである。無料ということはないが、とにかく激安なのだ。ことカネのことでは心配いらない。医者にかかれない貧乏人は呪術しかないという枠割分担もあるので、チップ程度の価格だ。だいたい50Pと思えばいい。気前よく100Pでもいい—-そんな価格帯だ。

コロナが流行する以前から、呪術師というのは、やれ子供の風邪、やれ夫婦の呪いなんてものに対応してきた。
彼らがやることといえば、話を聞くだけ聞いてから(もう話すことがない!というほど聞き上手なのだ)ブツブツいって、マーキュリードラッグの香油なんかを重々しく額に塗ってオシマイ。

 

粗末なものだが、これは需要があるのだ。クリスチャン以外でも通えるのも大きい。

ガキのころに大病を治してくれた!ともとなれば信頼はブ厚いのだ。医療の発達していない、フィリピンのジャングルで、なにか頼れる場所があるというのが、どれだけ有難いか。呪術師でもなんでも、20ペソ、50ペソで、健康を回復する手段があるのだ。そして実際助かった実体験があるとしたら?—これは私たちの想像を超えていると思った方がいい。

風邪を引いたら、あそこにいって祈ってもらう!それで子供のころの大病が治った!というのは、岩盤のような信用があるのだ。ガキの頃の原体験というのは大きい。
(そりゃそうだ。祈りが通じなければ死んでるわけで、死者はクレームを言わないからな)

 

あなたが日本人で、教養があればあるほど、『非科学的だろ・・・医学の全否定』と言うだろう。わたしたちは西洋医学を中心にしているし、多少の漢方も役に立つ、程度だろう。
日本人にとって、呪術というのはほとんど問題外だ。もしも自分の子供が目の前で熱を出していればなおさらだ。ひとまず市内のデカい病院に連れていくという判断がベストだと、誰しも考える。

だがちょっと待って欲しい。

比人にとっては、呪術師にかかるというのは安心を買っているようなものなのだ。呪術師もそのへんはよくわかっている。日本の占い師同様、市井のメンタルヘルスという役割があるのだ。
日比カップルで、呪術師に連れて行く行かないでトラブルになることがあるけど、私のアドバイスとしては連れて行け、だ。

全く時間の無駄であり、一秒でも早く正しい治療を受けさせたほうが良いと、あなたは考えるだろう。しかし、多くの母親にとって、これは無駄な時間ではない。
もちろん子供が高熱を出している等、判断力が問われるだろうが、基本的には病状と相談して、一度呪術師に診てもらったほうが、後々の展開で後腐れがなくなる。

だから気が済むまで儀式をした上で、現代的な治療をすればいい。地元の呪術師をバカにはしないほうがいい。余計な軋轢を生むこと間違いない。

こういった原始宗教というのは、人の心に奥深く根付いたものだから、私たち外人が否定すればするほど、夫婦仲は険悪になるだけだ。しかも結局連れて行かれるのだから、妥協点を探ったほうが賢明だ。むしろ病状が安定したのを見計らって、土地の呪術師に見せよう!くらいの発言が欲しいところだ。

『馬鹿馬鹿しい!そんなんで治ったら病院いらねぇよ!』なんて言っていたら、あんたフィリピンに向いてないのである。日本人が病気の回復や安産を願って神社に行くように、比人も呪術師と相談し(この相談内容は病気ではなくバランガイの世間話である。呪術師は下手なことは言わないので心配しなくていい)イニシエーションをするのだ。それで子供の健康を願うパートナーは安心する。そうこうしているうちに病気も治る。

国際カップルでフィリピンに住んでいるなら、いつか必ず「呪術師問題」がある。この記事が参考になってくれたら深甚であるw

 

(※この記事は、2020年に別媒体で書かれたものを加筆して再掲載しました)