日本に帰国し損ねそうになった話
今日はしょうもない話。去年帰国した時、危うくマニラに戻れなくなりそうなことに巻き込まれたのだ。ビールが切れたので、またもJIM-beamバーボン呑んでおります。短めの記事。
さて。私は昨秋 大阪の天王寺にいた。マニラに戻る当日の朝だった。
ホテルをチェックアウトしたら関空めがけて一直線だ。当然 新今宮から快速で関空に向かうべく、足早に向かっていたんだけども、なんか後ろで音がした。咄嗟に振り返ったら、おや?ヒトが倒れているのである。
飛び降りであった。
普通飛び降りってのは、凄い高さから飛び降りるべきだと思うんだが、ソイツは3階建てくらいの、ショボイビルから飛び降りたのであった。まぁそれでも充分死ねるけど?俺はビルを見上げてガッカリした。他にも高いビルが沢山ある、大阪の ど真ん中なのに、なんでこんなショボイビルから飛び降りるんかね。おそらく、死にたくないけど飛び降りた系の『メンヘラ系ファッション飛び降り』だと、すぐに判断できた。
—あのさぁ。飛び降りるのは勝手だけど、ここで通報したら、俺飛行機遅れるじゃん。第一発見者なんだから…
まず最初に思ったことが、こうである。
でも通報しないわけいかないよな…それに救護もしないといけない…
アレ?オレの携帯って緊急通報できたっけ?
どうしようコレ、なんて立ちすくんでいたら、すぐに他の通行人が通報した。(そりゃそうだ。朝だったし、人通りも多い。大阪ど真ん中の大通りである!)すぐにワイワイと人が集まって、アレコレ騒いで野次馬が出来た。この間、1分もかかっていない。あっという間に人だかりが出来た。
その姿を見て…俺は立ち去ることにした。お利口さんになってしまったのだ。だって、俺が駆け付けても、人だかりにひとり増えるだけだもん。
すまん。俺は関空に行かなきゃいけないんだ。今さら何か出来ることも無い。医者じゃなんだから。(しかも場所は大阪公立大学医学部付属病院前(道路を挟んだ向こう側)という、絶っ好のロケーションであった)
でも。この件は心残りなのだ。ひとを見捨てたわけじゃないが、もっと行動を起こせたんじゃないのかというのがモヤるのだ。
本当だったら、国際線の予約なんて気にせずに、真っ先に駆け付けないとおかしい。それが人間本来の姿ではないか。自殺だろうがなんだろうが関係ない。とにかく動かなければならないだろう。アッと思ったら、まず駆け寄らなければならないだろう。
とにかく、俺は駆け寄れることが出来たのだ。落ちたてホヤホヤなんだから。
ところが俺は、そうしなかった。飛行機に遅れる時間惜しさ、というのもあるにはあるが、なにしろ咄嗟の出来事だ。動きを止めてしまったのである。なにが起こった?と消化するのに時間がかかったのだ。気づいたら俺はなにも出来なかった。(ただの使えないヤツである)
マニラに戻る日の朝ってのは、色んなことを考えながら歩くものだ。そりゃあもうね。色々考えながら歩いているわけだ。これは海外在住者共通だと思うが、日本に戻るというのは、いわば長期休暇なんで、戻ったあとの諸々が押し寄せてくるものなのだ。
—なんかやり残したことないか?電話のかけ忘れはないか?お土産は全部買ったよな?アイツは正露丸じゃなくってなんだっけ?キャベジンだったっけ?あ、ジェネリックの「キャベコリン」だったっけ?完全に買い忘れたな…もう面倒くさいから空港で適当に買おう。あとなんだっけ?あ、薬局といえば目薬ナンボン買ったっけ。ひとつは"コンタクトしたまま点眼"だったよな確認したか?してないよな。まぁいいや、外して点眼すりゃいいだろそんなもん。あーそういえば、あの件はマニラに戻ってからでも処理できるな…後回しにしよう。えーとあと何があったっけ。あ、今、日本円ナンボあったか数えるの忘れた。あー電車ン中で数えるっきゃねぇかー。電車の中といえば、入国のQRコードまだやってねぇぞヤバイ、電車乗ったらまずそれを申請しないと…そういえば日本のチョコが食べたいとか言ってるヤツいたな..でも「ロイス」は無しだな…なんかお茶を濁すお土産ローソン空港店にあんだろ…ドンキでチョコ買ったっけ?あ、買ったな確か。うわー明日の予定ヤバイな順にズラしていかないとこなし切れないぞ…まともに相手してたら寝る時間が無い…あ!ドライマンゴー買ってお土産にすんの忘れた。(←日本のほうが安い)まぁいいかどうでも…
なんつって考えながら歩いているまっ最中に、まさか飛び降り者が落ちてくるとは思わない。
俺は電車に乗りながら、俺の行動は正しくなかったと、物凄い自己嫌悪に陥ったのだ。ああ。俺は卑怯者である。助けようとしないのはおかしいじゃないか。自分の都合で立ち去った、さっきまでの自分にガマン出来なかったのだ。
—いやいや。そもそも飛び降りるヤツが悪いんであって。
俺はただの通行人であり、偶然その場に居合わせただけで、もしかしたら気づかなかった程度の物音に振り返ったにすぎず、そこで立ち去ったとしても不思議ではないという状況だった。が!振り向いた結果ヒトが倒れていたのも、これまた事実である。
それを、国際線に遅れるからといって助けようとしないのはおかしいだろう俺。
緊急事態にこそ、人間の地が出るというが、俺は情けないヤツである。飛行機なんかほっておいて、すぐに駆け付けるべきだった。荷物なんか捨てて、大丈夫ですかと駆け寄るべきだった。どうしてそういう行動を取れなかったんだろう。
比では、トラブルがあったら全力で避けるという行動様式が義務である。なんなら、犯罪を目撃しただけで引っ越しをするのがフィリピン流だ。(犯罪目撃と、宝くじに当たった比人は数日中に絶対引っ越すのである)
しかし、今回の件は日本ではないか。俺は日本人として取るべき行動をするべきだった。すぐに他の通行人が119をしてくれた(ほんの数十秒の差でしかない。いや、10秒もないとおもう)が!俺がおそらく一番早く119をすることが出来たのかも知れないし、少なくとも駆け付けることはできた。どうしてそれが出来なかったんだろう。
この件は、俺の大切な、帰国最終日を思いっきり台無しにしてくれた。