無一文でフィリピンに居続けた男の話

呆れた。困窮邦人数おれど、これほど恥知らずでウマい手を、いやウマい手口を考えた日本人がいるとは！

この男は困窮邦人。無一文でビザもトックに切れている。ところがメシは毎食腹いっぱい食い、酒飲んで寝る生活を、なんと四年もしていたというのだ。今日は、その男の、驚くべき手口を紹介しよう。

誕生日巡りで満腹生活

デッカイバランガイだと、毎日誰かしら誕生日なので、そこに行ってメシを食いまくっていたのだ。シンプル。なるほどである。

どういうことかというと。

比では日本と逆で、誕生日のお祝いというのは誕生日になった人が準備することになっている。

これはなかなか面白い文化だ。何故なら、この方式だったら、カネが無い場合、自分のお祝いをしなくて済むからだ。貧乏人でも恥ずかしい思いをしなくて済む仕組みになっているわけだ。今回はセルフお祝い止めとくわ、でオシマイにできるからだ。もっとも、貧乏人であってもそれなりの誕生会は行えるし、だいたいみんなメシは持ち寄ってくれるのでカタチにはなる。最悪100ペソもあればやってもらえる。

（略）

基本、カネがあるヤツが、カネを払ってセルフお祝いをするのがフィリピン式。（最近では例外もあるが）もっとも子供の場合は地域でやってくれる。

普通、子供の誕生会なんかだと、だいたい親がバランガイのテントを張って、安っぽいスパゲッティとルンピアとヤギの肉とアイスティとエンペラドールを並べて、近所に振る舞うのが通例となっている。（これは見ず知らずの通行人でも食べることができることになっている。お祝いの席だ。客人に料理を振る舞うのは比だけでなく世界共通だ）俺ら外人なんかだと手招きされて、食っていけよ！呑んで行けよ！歌っていけよ！と絡まれる。別に誕生日じゃなくても、この手の飲み会は地方で頻繁に開かれている類のもので、顔見知りなら寄ることができる。なにしろフィリピンはガキが多いので、誰かの誕生会なんてもんは、ねんがら年中毎日朝昼晩行われていると言っていい。

俺も何度かご相伴に預かったことがあるのだが、カネを払うという行為自体が想定外という感じだ。料理が置いてあって、椅子が並べてあって、座って食うだけだ。それで誰もなにも言わない。そういうものなのだ。誰かしら料理を持ち寄り（キロ単位のスパゲッティ！）勝手にバクバク食い、道路を占領してグッダグダメシを食って夜はエンペの回し飲みして歌って踊って酔っぱらって寝る。ケーキはマズいのでタンバイに食わせる。暗黙の了解として10ＰＭに解散。（これはフィリピン全土共通）これがフィリピンの地方誕生会だ。ただの寄り合いと化していることも珍しくない(笑)あまりにも誕生会が多すぎるので、もはや誰の誕生日なのかもわからないくらいだ。

（略）

それを逆手にとって、この誕生日メシを数年間毎日食い続けた日本人がいた。

これは本当に上手い考え方だ。365人いれば、少なくともどこかで誕生会がある。1200人もいれば、確率上朝昼晩食える。誕生日以外でも、このテントメシは良く見る。マニラでさえ道路の半分を占拠してカラオケ大会している（地方はもっとひどい）食えなければ遠征すれば良い。外国人が『なにやってんのかな？』みたいにテントをのぞき込めば、気のいいヤツらがまぁ座れよと誘ってくる。酒も入っているし祝い事だ。まんまとメシにありつけるわけだ。これをローテーションしたらどうなるか。一生メシには困らないというわけだｗ
酔っぱらってしまっても「しょうがねぇな」と誰かの家で寝泊まりできてしまったわけだ。

俺ならこんな生活10日も無理だが、貧すれば…である。ま、この手法、誰にも迷惑をかけていないのはエライ。

ところが誤算が生じた。この「日本の恥オジサン」なにしろ四年間もテントをグルグル回っていたので流石にバレてしまったのだ。

何故か美談に！

この『テント巡り乞食』というのはフィリピン人はやれないらしい。（まぁそうだろうな）外人だからこそ、なんとなく酒のつまみにもなるし、珍しいので食ってけ吞んでけになるのであって。いわば善意の悪用なんであるが、この困窮邦人さん、一種有名人になってしまい、最終的にＧＭＡの番組に出演してしまった。

まさかのテレビ出演。それは日本人を助けたフィリピン人の懐の深さを称える内容となっていたのである！あー。考えてみると、これってキリスト教的善意そのまんまなんよな。「空腹の旅者がいれば振る舞いなさい」みたいな原始的善意が根底にあるから、こういう乞食行為に指さす奴はおらず「どうだ、俺らの社会もまんざら捨てたもんじゃないだろう！」という論調となっており、中継のバランガイも「また来いよー」みたいなノリで番組は終わった。プロオゴラレーヤーのフィリピン版みたいなもんか。