三億ペソを抱いて寝る男(4)

玉城は、その一言を聞いた瞬間に爆発的に笑った。息もできないほどの「ヒェッ…ヒエッ….」という笑いだった。明石家さんまみたいだなと思った。

涙を拭うほど一通り笑った上で、ようやく「そう。そうなんだよ!」とだけ、絞るように声を出した。カジノ追い出されたんだよ!当たり!!なんていって、またまた大爆笑をしている。寝室なので、笑い放題だ。もうベッドの上で、ドタバタ笑っている。なんだか私までおかしくなってきた。

わたしは、この笑い転げているオッサンを眺めていて、「このひと、あんまり悪い人じゃなさそうだな」という印象に代わっていた。

隣にある三億ペソの札束がどうやって出来たのか。前半部分だけでもう面白い。

「そうなんよ…カジノ追い払われたんよwwウッヒーww」なんつって、思い出し笑いが止まらない隣で、崩れてきそうな札束があるというシュールさであった。

ようやくひとしきり笑いが収まって…妙に沈黙w

わたしはさっきのコーヒー屋の印象があったので、アイスコーヒー頼みません?と切り出してみたら、イイネ!なんつって、玉城は、やっぱりピックアップコーヒーに連絡して。すぐにアイスコーヒーが出前されてきた。やはり玉城は千ペソ札を渡して扉を閉めていた。

レギュラーコーヒーに氷を入れただけの、うまくもなんともない、推定価格500ペソの薄いアイスコーヒーをふたりで飲み、少し呼吸を置くことができた。

さて。カジノを追い払われたら、せっかくの話も台無しである。

「ほんでね」

はい

「まずね。わたしはね。いい加減なカジノってのを調べたわけ。フィリピン全土」

はい

「そしたらね。だいたいニジュウくらい見つかった訳よ」

いい加減なカジノってなんですか?

「んーとね。カジノじゃないカジノだね。カジノってのはルールがあるわけ。サイコロでもトランプでもそうだけど。イカサマできないようにするというかね。フィリピンだとそうじゃなくって、客を楽しませる演出みたいなことをやるカジノ。これがたくさんあったわけ。セブとかね」

「だから、俺は、退職金もあったんで…20代30代限定でひとを募集したのよ」

え?なんで?

「んーとね。これを成功させるには人がまずいる。で、フィリピンでしょ?機転の利くヤツが欲しかったんで、日本で面接して、使えそうだったらソイツを人事にして、ソイツにまた面接させてね。紹介の紹介みたいな感じで、とにかくまず軍団を作った

「で、この軍団をフィリピンのスキのあるカジノに配置して、まず出目を録画したのね。分析したのは俺」

出目を録画って…そんなことでき

「眼鏡にカメラを仕込めばできるよ。今はできないかもしれないけど当時は余裕。それに出目は公開されているしね。カジノ側だって警戒してない。コッチは年間通じての出目が欲しかったから」

玉城はそういって、実物を見せてくれた。両眼の真ん中にカメラ部分があり、他は空洞を使ってバッテリーになっているという。データはWIFI経由で飛ばせる。当時でさえ普通に市販されていて、マニラで売られていたそうだ。素人のスパイグッズといった体だが、これで必要充分にデータが取れたのだという。

「で、分析していくと、とんでもないことが分かってきた。さっきの話だけども、カジノによっては101.5%を超えるところもボロボロ出てきた。これはおかしいよね?ということになった」

それはそうだ。カジノというのは、1/1000でもいいから、絶対確実に勝つルールの元で行われている。だから客は賭ければかけるほど最終的に財産を失うようにできている。唯一ポーカーだけは客同士の奪い合いだが、あれはカジノの賑やかしでやっている(場にヒトがいないと客を呼べないので行われている)だけのことだ。

(ポーカー以外の)カジノゲームは、100%賭ける側が最終的に負けるように出来ている。これは数学的美学として完成されている。

確かにおかしい。101.5%等というのは、あってはならないこと。100.0001%でも、あってはならないことなので、これは物凄いブレである。

それが102%、105%というカジノが、次々と発見されたというのだ。そんなことはあり得ない!

 

—で、なに?「軍団を作った?」

そして見つかった、フィリピンカジノの「あってはならないキズ」。これを見つけたというのだ…

ここから話は少しややこしくなっていくのだが、あまりに俺は頭がパンパンになっていた。これはもう、ただのマニラナントカ相談じゃない。在住者相談レベルをとっくに超えている。

ここで、俺は一旦、帰ることにした。

ちょっと、今回は、俺のキャパシティーを超えていた。これは相談じゃない。ちょっとした冒険話である。

”ひとまず明日また来ます”といい、トイレに行き、コーヒー二杯分のションベンをして玉城の家を出たら、もう外は満点の星空である。あっという間に5時間くらいたっていたのであった。

この非現実感よ…気分は悪くない。

で。

さて。本件どうするか?帰り道考えた。

 

そもそも、いくら俺のブログのファンだからといって、どうしてこんな話をペラペラと?普通なら絶対話さない内容のはずだが、玉城は違った。もう話したくて仕方ない。なんでも答えますよという風だ。こんなひといる?!まぁ海外は何でもアリなんだろうけど…

そして、なにより目の間にある三億ペソという絶大なる説得力。ざっくり、約10億円である。

10億円…個人で10億円あれば、もうお金は使っても無くならない。無限に増えていくお金だ。

だって1%が1000万円である…フィリピンの銀行金利なら、置いておくだけで年収3500万円~6000万円になる。(記事執筆時点の比の銀行金利は、定期なら6%程度つく。複利でだ)しかも、さっき毎日30万ペソづつ増えていくと言っていた。つまり100万円づつ増えているということになる。一年じゃない。一日で、だ!

なるほどたしかに、「これどうしたらいいんですかね?」である。多分玉城は、いまあるカネ全部吐き出しても、盗まれても、すぐにまたカネを作れる自信があるのだろう。ドラえもんのバイバインみたいに、無限にお金が増え続ける男。そんなヤツいるのかよ…

—あのカネは、シャブだの銃だのマネロンだのといったお金ではなく、どうやらカジノで稼いだお金のようだ。(つまり合法だ)
そして、おそらく「仕組み」「スキーム」を作ってしまったのだろう。だからカネは増え続けている。そして、玉城は、もう増え続けるカネが怖くなっているのだ。

別に表に出してもいいんだろうが、額が額だ。「アンタコレなんのカネ?」と言われたら、確かに答えに詰まる。なにしろなんの書類もないんだ。聞いてなかったけど、たぶん何も無いだろう。

しかし…それにしても…諸々腑に落ちない。

私もカジノの裏技話は、多少は知っているつもりであるが、この話では、このようにお金が増えていくこと等ない。一体どうやって?

—ひとまず眠ろう。そして、頭をスッキリさせて、もう一度玉城の話を聞いてみよう。

少なくとも俺は、玉城の家に毎日通うことを決意した。理屈抜きに面白いし、カネがあるという事実は重い。三億ペソというカネを現実に見ると、物凄いインパクトがある。眺めているだけでも飽きないのだ。下手な観光名所よりも、ホンモノのカネをただ眺めるだけでも、ずっと見ていられる。それだけの迫力がある。

 

—玉城。アンタ何したいの?アンタ一体どうしたいの?まさかカネ見せびらかしたいわけじゃあるまい。

彼の”これからの未来”を、俺はまだ聞いていない。一応相談というからには、将来の相談であるべきだろう。

『どうやって、この三億ペソを手に入れたのか?そして、このカネどうしたいのか?』コレである。

それに…軍団?なんだ軍団ってw 玉城軍団か。

「いい加減なカジノ?」そんなものあるわけない。シャブでもやってんじゃないのかあのオッサン…

でも、ああ!カネ持っているんだよなぁ。ということは、何らかの方法で「増やした」これは間違いないのだ。

それとも、カジノ話はまったくの嘘で、やっぱり怪しいカネなんじゃないか?(注※当時はオレオレ詐欺等はほとんどなかったのでモシモシ系ではありません)ズバリ犯罪絡み。こちらのほうがスッと来る…んだが!だったら簡単に現金を見せたりはしない。

いや、これは在住者だから考えることで…玉城がド素人だからこそ、今日みたいな行動を取ったのかも?

いやいや….それだけ隙を見せていたら、とっくに寿命使い切っているよなぁ….味方と思っている軍団員が襲ってきたらその日が命日になるだろ。億のカネなら人は簡単に死ぬ。日本でも死ぬ。フィリピンだったら絶対死ぬ。100%死ぬと言い切れる。そうだよ あのオッサン、そもそもなんで生きていられるんだろう?なんらかのプロテクションがかかっている。

そもそも、あのガバガバな生活はなんなんだ。セキュリティさえいない、市井の住居に住んでいる。

コーヒーの件だってそうだ。素直に釣りを貰えばいいのに、出前を千ペソ毎回チップとして払っていれば、あの家カネがあると教えているようなものではないか。それともバランガイテントで銃でも見せびらかしたか?

 

考えてみると、玉城の言っていることは、矛盾だらけだ。

でも!あのお金。あのお金はホンモノだ。間違いない。玉城は、今晩も、あのカネの隣で寝ている。

俺も、あの1%でもいいから欲しい!って言ったら貰えるのだろうか?

あー貰いたい。玉城がいない隙に、ウッカリ頂き男子したい!そんなスケベ心がでてしまう。あんなもん見せられたら。カネに名前は書いてないとかいう謎のチンピラ理論を振りかざしたい!

でもなぁ。玉城のスキーム。これはいったいなんなんだ?せめてこれを聞かないといけない。あの調子だから、明日もクチが回るだろう。なにしろ話したくってしょうがない性格なんだから。

多分。聞いたら「なぁんだ」なんだろうが、それでもやっぱり、誰も思いつかないことをしたんだろう。それがなんなのか分からない。

それにしてもカネってのは面白いよな…