フィリピン政治について大まかな理解(1)

私のブログは、基本的にフィリピン生活にちょっとした知識を加えるという需要によって成り立っているのだが、今日は少し政治について書いてみようと思う。発展途上国に住んでいれば、為政者の機嫌ひとつで我々の生活も大きく変わる。

ボンボンマルコスの任期も、日、一日と減っているわけである。そんななか、「次」は誰か?なんてのは、在留邦人の酒の肴となるわけである。

さて。

今日はフィリピンの政治について、まるっきり知らない人向けに書こう。

有り体に言ってしまえば。大胆に言ってしまえば。フィリピンの政治家というのは一種の貴族である。

これは誰もいままで言ったことがない。ので私が初めに言ってしまおう。おそらく、この理解が一番近いとおもう。的外れではないとおもう。

フィリピンというのは共和制を敷いている。選挙も行われている。

日本も『我が国と共通の価値観を有する国家』等と言っているが(笑)外務官僚の作文である。

フィリピンの政治家は貴族のようなものだ。こう理解してしまったほうが話は早い。

バランガイが男爵とすれば、市長以上クラス、州知事クラス、下院議員クラスと上がるにつれて、子爵、伯爵のような扱いとなる。フィリピンは、簡単に言えば民主制独裁主義だ。

歯向かえば殺される。これは冗談ではない。フィリピンでは、対立候補を殺したり、気に入らないジャーナリストは即座に殺されたり、なんなら放送局ごと免許を剥奪されることさえよくあることである。この手の犯罪については、フィリピンは世界ランキングの下から何番目。アフリカの小国よりヤバイ。それほど殺されているのだ。平均すると三日に一人殺されているとさえ言われる。一般的に民主主義国家で、そんなに選挙で人は死なない。ちょっと危ない国だって、フィリピンほど死なない。

フィリピンでは、さあ選挙となれば殺人のニュース一色となる。それも「報道されている限り」の話だ。裏で何倍死んでるか分かったもんじゃない。

そもそもフィリピンの選挙ってのは、現職が有利なんてもんじゃない。若手新人が僅差で現職を破ることなど無い。統計上の誤差くらいしかない。市長や知事が変わるときは、直系血族や譜代の人間だけ。それ以外、まずなれない。

税金を使った露骨な選挙運動が凄すぎるからだ。フィリピン人はみーんな現職を応援してしまう。長い物に巻かれすぎているのがフィリピンの選挙だ。

圧倒的有利!これがフィリピン地方選挙だ

フィリピンに来ると、有力者の名前の入っているテントだの消防車だのを、あちこちで見るだろう。田舎なんてひどいもんである。マニラの隣のリサール州なんて、イナーレス一族以外、どうやって政治家になれるんだろうか?わたしはこれを民主制貴族主義と名付けたいと思うのだがどうだろう。

普通の国では…いや、発展途上国どころか、後進国でも、こんなことをしている国は少ない。フィリピン慣れしていると日常に考えてしまうが、州や市で、現職政治家の広告看板が、これほど溢れている国もないというものだ。

特に福祉になると露骨だ。福祉系で役所から渡される小切手には、現職の名前と顔が入っている。(わざわざ特注小切手で支払われる)貧乏人は「ありがてぇ!ありがてぇ!」とそれを受け取るもんだから、まるで、現職政治家が個人でカネを渡したように見える。これもう税金を使った選挙運動そのものなのだ。

昔はもっと露骨で、現職政治家は、本当に道にお金を撒いていたそうである。そして庶民は全員「ありがてぇ!」と拾っていたというのだから救いがない。(エストラーダが撒いたのは有名)

それでも、一応民主主義なので、立候補するヤツはいる。野党系や左翼系はいいとして、怖いのは「メチャクチャ言いことを言う有望若手政治家」みたいなヤツだ。そういうヤツはまず殺される。殺されないわけがない。「あ、コイツ殺されるだろうな」と思って見ていると、やっぱり殺される。なんだかもう殺されないほうが不自然なくらい殺される。田舎なんか酷くって、若手新進気鋭候補を推したショッボイ地元のラジオDJなんか皆殺しにされる。見せしめである。それも、スタジオで喋ってるときに、これ見よがしに銃撃される。そんなことしなくても当選するのに殺っちゃうのである。

正常な民主主義国家なら、こんなことやったら政治家としての終わりなんだけど、何故かフィリピンではそうならない。不幸な事故ということで終わる。疑惑を追及すると必ず殺されるからだ。

そんな中。フィリピンでウッカリ真実のジャーナリズムを貫いちゃった気骨あるメディア「ラップラー」は、2021年。なんとノーベル平和賞を受賞してしまった。とてつもないことであるw まさに外圧黒船だ。

これつまりフィリピンの政治家は大恥である。当然、あらゆる方向からラップラーは攻撃を受けまくったのだが、あまりに国の恥となるので フィリピン司法もさすがに機能し(笑)「ええ加減にせえよ」ということで、ラップラーに対する揉め事は全部無罪となり…いまは停戦中といったところか。

あ、話がそれた。

ほんで。そうなってくると、だんだん、何故か誰も立候補しなくなるので、ますます地盤は盤石なものとなり、永久に世襲がまかり通ることになる。フィリピンの政治家の家に生まれた男性なら、もう受精卵の時から特権階級だと言えよう。

大統領選挙だけは別

フィリピンの地方というのは、このように選挙はあってなきがごとしなんだけども、大統領選挙だけは別だ。

もちろん不正はあるんだが、有権者数も多いし、国際社会の目もあるので、誤魔化しきれない。フィリピンの大統領選挙は、かなり民意が反映されていると思っていい。一般庶民も関心があるし、規模がでかすぎて、買収しようとしてもあまりに数が多いのだ。ひとの少ないド田舎だって、それなりに有権者はいる。彼らだって一票をもっている。これを集めたら政治が変わるのだ。日本と一緒である。

ほんで比の大統領選挙なんだけど、おおよそルソン知的層VSその他全部で争われるという理解で、まずはいいだろう。

ルソン知的層が立ててくる候補者は、我が日本とも手を取り合える、話の分かる、「一国の大統領候補者」という人が多い。知的で品性があり、多言語を話す。堂々としており、外国のリーダーとも渡り合える知識と権謀術数を身に着けている、次のフィリピンを導くような人物が選ばれる。さすがマニラを擁するルソンである。とはいえ、ルソンの知的層なんて、大きく見積もって600万人から800万人….ひいき目にいっても1200万人程度の話である。高等教育(中卒以上)「字も書けます。英語読めます話せます」という、ある程度教育のある人々は、まだフィリピンでは少数派なのかもしれない。

で。それが気に入らなくってしょうがないのがその他の地方だ。ルソン知的層以外のフィリピンの島々ほとんど全部は、そういう賢ぶってるヤツにだけは投票しない。(数字でいうと10-15%しか投票されれないと言われる)オラが大将を立ててくる。地元利益誘導型の神輿タイプ候補だ。ビサヤ、ミンダナオ連合軍は、数の上でルソンを圧倒する。このふたつの地域の推す候補者に勝てない。…んだけども、あまりにやりたい放題するので、自浄作用が働き、毎回それなりの激戦となる。

この「鼻もちならないルソンのインテリ野郎」VS「田舎のオラが大将連合」が激突するのが、だいたい、いつもの構図である。(実際にはもっと複雑です)

分かる通り、有権者の数から言ってもルソンのインテリは少数であり、毎回分が悪いので負け続けである。フィリピン人の地縁血縁は、日本人にも劣らないほど強固なので、なかなかこれを崩すことはできない。

 

ルソン派が勝ったノイノイアキノ大統領の思い出

いわばルソン派であるノイノイアキノ大統領というのは、もう選ばれるべくして選ばれた人なので、田舎大将も戦意喪失した選挙だったんだけども。この人、なにが凄かったかというと、「もう救急車に政治家の名前とか書くの止めよ?」と言ったひとである。「政治家の名前書いた消防車を役所に飾っておくの止めよ?」と呼びかけた人である。—まともである。もう、ものすっごくマトモである。そうだよな。考えてみるとおかしいよな?

これは当然、地方貴族からの猛反発を受けて有名無実化したんだけども。

たとえば知っている人もいるだろうが、このひとが大統領になったとき、入国カードの裏が「ノイノイアキノの顔面カラー印刷」であった。

新しいリーダーに入管が尻尾を振った訳であるが、ノイノイはこれに激怒し、印刷済入国カードを全て破棄させたことがある。それどころか、彼は自分の顔が税金で印刷されることすら嫌がった。『まず、フィリピン内国自身の政治を自浄しよう』ということである。素晴らしいの一言だ。これをやれるフィリピンの政治家何人いる?多分ひとりもいないんじゃないかな。

私はノイノイの改革に期待したのだが、あまりに抵抗勢力が大きすぎたのであろう。残念ながら理想で終わってしまった。

日本の国益ということでいくと、基本的にルソン派の立てる大統領候補のほうが良い。

田舎大将系は「裁判なんかしなくっていいから犯罪者はぶっ殺せ」(これはフィリピンの政治の流れとして支持を得やすい発言となっている)といって拍手喝采を浴びているが『もしもあとで真犯人が出てきたら、そのブッ殺されたひとはどうなるんだろう?』といった程度の想像力も無いわけで、やはり我々との価値観の距離は遠い。

近年。フィリピンは、また田舎の大将が勝つ時代に戻ってしまった。残念ながら、コッチ系の大統領になると、よくわからない大統領令が出るので、私たちの生活は基本的に疲れることになる。今月も休日がいきなり移動したが、なんの意味があるのか分からない大統領令だ。

ま、ヨソの国のことをとやかく言っても仕方ないんですけどね。フィリピンはフィリピン人の国です。
全国民にコロナ補助金とマスク配るとか言ってた日の丸も、結局、在留邦人にはマスクの一枚もありませんでしたね…(←しつこい)

 

それにしても、次の比大統領選挙。「次ダレ?」を楽しみましょう。なんせ政治的にミンダナオが荒れてますので、票を持っているレニー(←鼻もちならないルソン知識層が支持する前候補者)がもう一度出たら絶対面白いと思うんよね。レニーは日米西側協調当然それしか比の生きる道はないという人なんで俺はもう一度立ってほしいんだけど、ちょっと疲れちゃって政治から距離置いてる感があるのが無念。

さてどうなるかな。