ジャングルに住む子を働かせた結果

去年の話なんだけども、縁故でひとり入れようかという話があり、入ってきた子がいた。

その子はフィリピンのナントカ島出身で、ずっと不幸な目にしかあっておらず、飯炊きサンパイ(←洗濯干)女であった。
なにしろ生まれてこの方、ジャングルのニッパヤシから出てきたことがないという。
なかなか凄い話なので、わたしはちょっと楽しみであった。

しかし会ってみると英語はペラペラ(よくある)なかなかに吸収力もある。なにしろ素直だということで周囲も勝手がよい。やれと言われたらズッとやっているようなオンナでありウケがいい。コレは拾い物かもしれないとなったのである。

この子の家は、本当にいわゆる田舎らしく、大人がひとり、一日稼いで150ペソ(380円)程度ということだ。フィリピンの最低賃金というのはもっと高いんだけど、それはマニラ近郊や大手工場勤務の話であり、市井の人々にとってはこれが普通のようだった。

だから、彼女にとっては夢のような話であり、一生懸命がんばっていたわけだ。

ところが、大きなトラブルがあったのだ。

 

 

彼女はジャングル暮らしに慣れ過ぎた—というよりも、そこから出たことが無かった結果、一般の人が知っている常識とはかけ離れてしまったのである。
それは、冷凍庫の霜をアイスピックで取るだの、テフロン加工のフライパンを金たわしで擦るだのといった、よくある話ではなくって、車酔いするのである。

わたしは、ジャングルの人が車酔いするということを初めて知った。どうも三半規管が子供のままらしい。

そして、彼女は、何回かの乗車で完全に車酔いをしてしまい、ついにギブアップしてしまったのである。

ジャングルからの家族からは、どうしてそんなことをするんだ!すぐに家に戻せ!と矢の催促だったらしく、「虐待した側」の我々にとっては困ったことになった。

そうしている中、クリスマスも近づいてきて、里心もついた彼女は、黙ってジャングルに戻ってしまったのである。
急にいなくなったということで、こっちは大変であった。

それにしてもマニラにいれば、ジャングルで働くお金を数時間で稼ぐことができるのに、それをしなかったというのは、なかなか考えさせられた。