前々から。ずっと前々から、作る作ると言っていた「GMAのボルテスV」
日本でも話題になっているようだ。(結局制作開始してから8年たったわけだ)
今日は、フィリピン在住者として。そして、特撮アニメを愛する者として。
この話題を避けて通れまいということで、気合を入れて書く。レッドホースと共に、今晩もよろしく。
フィリピンでボルテスVが認知されているというのは本当である
まず、フィリピンでボルテスV人気が高い。これは本当である。以前住んでいた近所のモールで、本当にバスケットコート一面分くらいの、バカでかいボルテスV看板を見たことがある。認知度はかなりのものだ。おそらくガンダムより上だとおもう。
では、何故人気となったのかについてなんだけど。
これはフィリピン人が初めてみたスーパーロボットアニメだったからである。
これが第一。
スーパーロボットに対して、まったく免疫の無い国の人々に、いきなり日本の凝りに凝った世界最先端のロボットアニメを見せたんだから、そりゃあ刺さるわけだ。ファミコンも無い国に、いきなりプレステが登場するようなもんである。
日本では見慣れているメカの合体や、愛と勇気で巨大な敵を、子供がロボットで倒すという設定。
この価値観がゼロな男の子に、いきなりボルテスVである!斬新で新鮮で面白い!こんなの面白いに決まってる。文字通りブっとんだ訳だ。尖ったヤツほど失神したわけだ。これはとんでもない価値観なわけだ。
アメリカ文化べったりのフィリピンだけど、
旧宗主国日本のアジア的価値観のほうが、そもそもどうしたってシックリくる。義理や友情が通じるのがフィリピンだ。
それも、金曜夜の20時というゴールデンタイムにボルテスVを放送したから、こんなもん人気爆発するに決まっている。
別にボルテスじゃなくてもよかったのだ。おそらく闘将ダイモスであっても良かっただろう。当時、たまたま日本から買ったアニメ。版権が安かったのがボルテスVだっただけだ。
日本語ブログの嘘
ここ重要。
ボルテスVのストーリーが、時のマルコス政権の逆鱗に触れて放送禁止になった。
これは嘘である。
フィリピン ボルテスV で検索すると、ほとんど絶対といって位、この話が出てくる。繰り返そう。これは事実ではない。
そもそも、ボルテスVのストーリー知ってますか?
これを読んでいる日本人の人、ひとりひとりに問いかけたい。
ボルテスVのストーリー知ってますか?知らないでしょう。じゃあ、マジンガーZやセーラームーンって、どういう話ですか?知らないでしょ?さっき書いた闘将ダイモスもそうだし、その前のコンバトラーVだって、WIKIを見ないで
ストーリー言えますか?
じゃあ。ボルテスVのストーリー。50代、60代のフィリピン人に聞いてみてください。ほとんど全員、知りません。主人公の名前も知らない人が多いです。日系企業の駐在員のかたは、是非、渋滞の時の暇つぶしの話題として聞いてみてください。
これは何故か。基本的に、特撮モノ、戦隊モノ、スーパーロボットモノというのは、もちろんストーリーはあるのですが。通常話 敵(ブチメカといいます)が出てきて正義の味方に倒される
基本は、これを繰り返します。
これ以外の話(ストーリー回といいます)というのは、だいたい5話くらいしかありません。この5-7話は、一話でも見逃すと話が全く分からなくなる重要回です。
そして、ストーリー回は、初回、二話目、中盤に一回か二回、最後に1.2回です。ボルテスVは40話ですが、人気が出る前の初回ストーリーから見ている人はあまりいなかったことでしょう。
つまり、フィリピン人のほとんどは、ボルテスVのストーリーを正しく把握できていなかったということです。
当時はネットどころか、DVDもありません。いやビデオデッキですら、日本で出始めた時代です。テレビ自体、町内にひとつ、ふたつしかないというフィリピンでは、どうやってもボルテスVのストーリーなんか、追いかけられなかったはずです。
ですから、フィリピン人は、単純に超ロボットを操る子供たちが、悪の軍団に立ち向かって勝つ姿に爽快感を覚えていただけです。
子供時代というのは一生思い出に残りますから、そりゃあもうボルテスVが一番カッコイイという大人が量産されたわけです。
どうしてボルテスVの最終話はフィリピンで放送されなかったのか
これは政治的圧力ではありません。
そもそも軍政下のフィリピンでは、夜間外出禁止でしたので、金曜夜のゴールデンタイムに、日本の最高のアニメが放送されるというのは、政治家も軍人も楽しみにしていたわけです。放送禁止にする理由がないのです。だって、テレビを持っていたのは富裕層なんですから、マニラ市民こそが、ボルテスVに全てを賭けて、視るぞ力の尽きるまで!というノリだったんです。つまり皆、通常回(ボルテスVが敵をやっつけてスッキリ!)を繰り返し見ていたわけです。
ボルテスVを止めたのは宗教の力
ボルテスVが途中で打ち切りにされたのは、キリスト教系団体の圧力があったと言われています。
なにしろスーパーロボットモノ処女の、(当時)純粋真っ直ぐなフィリピン人にとって、あまりに刺激的すぎました。当時フィリピンで許されていたアニメって、トムとジェリーくらいしかなかったんですから、巨大ロボットが合体して敵をぶっ壊すというのは、あまりに刺激が強すぎたのです。
つまりマルコス政権の反権力ということではなくって、暴力表現が問題になったのです。
ボルテスVの暴力表現?そんなのあったっけ?と思う人は日本人なんです。敵に向かって銃を撃つというだけでも、それは暴力表現になり得るわけです。
そして、フィリピンにおけるキリスト教団体というのは、マルコス政権ですら歯向かえない、隠然たる力をもっています。(特にカトリック教会は、今でも無視できないほど力があります)教会がダメだと言ったらダメなんです。
ボルテスVは、おそらく敬虔なカトリック教徒にとっては耐えられない内容だったのでしょう。
わたしの持論では、マルコス政権がボルテスVの放送を止めさせたのではなく、マルコス政権は放送を止めさせられたのではないか、と思っています。
上記にも書きましたが、巨大ロボット系アニメというのはストーリー回などあって無きがごとし。五人の仲間が悪の敵を粉々にするのを、大人も子供も楽しんだわけです。
いいですか?当時のボルテスVの放送は金曜日でした。つまり明日明後日は教会のミサがあります。人を許せだの、隣人を愛せだのと説法している教会に取って、ボルテスVは商売の邪魔でしかありません。
それほど日本のアニメが革命的に面白かった。それは、教会にとっては、まるで客を奪われたように思ったことでしょう。
そして、教会が止めろといったら、比ではどんな政権でもハイ分かりましたと言うでしょう。
おそらくこれが真相にもっとも近いと思います。
フィリピンは日本よりも放送コードがウルサイ
フィリピンのテレビでは、ひとつひとつの番組ごとに、全部視聴年齢が表示されます。しかも凄くうるさく、はっきりと表示されます。これは何故かというと教会がウルサイからです。子供に見せてはいけない表現を規制しろ!という建前があるせいで、ウンザリするほど年齢確認があるのがフィリピンです。子供のいる家庭では、ある意味助かるでしょう。見せてはいけない表現は、ガッツリ規制されています。
当時の日本のアニメは刺激が強すぎた
日本のアニメの名誉のために書いておきますが、70.80年代の日本のアニメは、言うまでもなく最高なんですけど、海外に輸出するには刺激が強すぎました。これはフィリピンに限らず、海外では、当時いろんな問題を起こしています。
北欧で大爆発OF大爆発。不動の人気どころではない、もはや教科書になっている「流れ星銀」は日本版と別物というくらい暴力表現がカットされすぎていて、ストーリーが分からなくなっているほどです。(人気が出すぎて字幕なし日本版が闇で流通したそうです)
日本側もそれに気づいたので「北斗の拳」(暴力表現とかいうレベルじゃねぇぞ?)なんかは、血が緑色だったりします。
ジョジョの奇妙な冒険だって、最初はナチスドイツが「ドイツの科学力は世界一」なんてこと叫んでますね。
私たちの国の、限りなく規制の無い、素晴らしい表現の自由が、オレは大好きです。が・・・海外では、いろいろ引っかかっちゃうわけです。
今回のGMAは本気な訳
さすがに、令和のフィリピンでは、教会がボルテスVのヤバイ回を無修正で放送しても、なにも言わないでしょう。
でもそれってダブルスタンダードですよね?
本当だったら、フィリピンの教会は
「ムーけしからん!」と怒らなければならないはずです。そうでないとおかしいですよね??宗教者の発言というのは、基本的に100年くらい前の教えが広まっていくはずです。キリスト教の歴史からいってもそうです。朝令暮改というのはキリスト教では絶対ありえません。
それをGMA(フィリピンの全国チャンネル)が、わざわざ東映とタッグを組んで、これ見よがしに悪を倒すわけです。
そう。今回のリメイクというのは教会への復讐なんです。
軍政時代、表現の自由を奪われた10代、20代のフィリピンの若者が、いま40.50代になって出世したんですね。そんなもん60代が「やってやれ」というに決まってますから、予算も時間も貰えたわけです。
「ボルテスVレガシー」は、表現の自由を奪われた比人の、数十年ごしの復讐なんです。そりゃあ予算度外視です。日本人がひっくり返るくらいのクオリティですから。
見てもらえば分かりますが、GMAのボルテスVレガシーはハリウッド関係のアメリカ映画と言われても気づかないほどです。異常にクオリティが高いのです。
わたしはフィリピンの番組を現地で見ていますが、あまりの気合の入れようにドン引きしているほどです。
なんでここまでやるのか。
子供の頃、一番大切にしていた時間。その最終話が放送されなかった。これは恨みの力です。恨みというのは、ものすごい原動力になります。
その子供たちが成長して、いま50代くらいですから、テレビ局でもっとも権力をもってます。油の乗り切った実権を持っている世代なわけです。
ボルテスV復活させようぜ。この旗には若い連中も付いてきます。
そうして、ボルテスプロジェクトが始まりました。(わたしの記憶では8年かかってます)
アホみたいにこだわった結果、日本のアニメファンも大満足。我が国のアニメを最高にリスペクトしてくれたんですから文句ないです。ほとんど病的なまで細かく再現されていて、東映公認ですからね。権利関係も全部クリアしています。GMAのボルテスVは大正義公認なわけです。つまり、今回のGMAボルテスVは、令和に舞い降りた当時モンの再現。
こんなもん、視るしかねぇだろ?ってことです。
さて、ルフィオレオレ事件でマニラの印象も悪くなりましたが、ボルテスVのリスペクトについてはどうよ?日本アニメのリスペクト具合においては、世界一のことをやってのける勢いにまでなってます。
つまり、ボルテスV復活というのは、フィリピンにおいて、当時リアルタイムで最終回を見れなかったという教会への恨みが原動力となって、ざっまああああああ!!!と言いたい、当時規制されて涙をのんだ人たちが蘇って、化け物級ボルテスVが生まれたんじゃないのかなと。
オレはこういう風に思っているのであります。
なんにしても、ボルテスVを通じて、日比の友好が深まってくれたらいいなと思ってるよ。フィリピンは犯罪逃亡する国だというレッテルばかりじゃつまらない。
いろいろ面白い国でもあるんよね。
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