マニラでパスポートの更新をした話

実はわたし、パスポートの更新は日本でやりたい派である。
発行欄はOKINAWAとかHYOGOとか、なんでもいいけど都道府県の文字を入れたい人である。

「えーなんでー。日本だと一週間かかるよー。土日挟んだらもっとかかるよー」と人は言う。

 

たしかに在外日本大使館のパスポート発行はメチャクチャ簡単だ。なにしろ、もう出国している人しか来ないんだから、会話はひとつだけ。
「戸籍変わりましたか?」これだけである。変わってねーよ「あっそ。座っとけ」マジでこれだけである。口頭試問一切ナシである。素晴らしい。

過去に刑務所に入ったことありますか?海外で強制送還されたことありますか?なんていうウザイ念押しが無い。

(私はこの念押しが大大大嫌いである。提出した書類に「無い」と申告して自署捺印しているではないか。それを調べるのはアンタらの仕事じゃないのかと思っている。
あのクドい念押しはメンヘラ女がリスカのフリをして男の気を引くようなウザさを持っている。都道府県のパスポートセンターによって対応はバラバラらしいが、下手に海外にいると国内ではあれやこれやと聞かれた人は多い。もっとも、聞かれるだけである。在留邦人というのは日本にいないんだから、日本でおかしなことをやりたくてもやれないだろと、多少声のトーンを上げて対応するハメになる。途上国に住んでいると役人には平身低頭だけど本国では思う存分声を出せるので、つい声が大きくなることだってある。それは一般的な日本人の振る舞いではない。日本の公務員は私たちの味方なのだ。途上国のクッソ小役人ではない。でも、紋切型の質問であっても(海外に住んでいる経験が長いほど)何を言うかと過敏に反応してしまう。パスポートは人生を分けるほどの書類だからだ)

きっと私は不器用なんだろう。どんな国でも役人には愛想笑いをして、平身低頭して、揉み手していい加減なことを言い、書類さえ手に入ればいいのだ。
フィリピンに住んでいてもそれが出来ない(交通系を除く)のに、日本のパスポートセンターなんて、考えただけでも行きたくない。
おそらく私は役人というのが本質的に嫌いなんだろうと思う。

 

その点、在外大使館なら あっさり審査は終わる。提出書類ゼロである。しかも何故か発行が早い。3日くらいで出来てしまう。大使館発行はイージーなのである!
さらに!パスポート発行料金というのは『公定レート現金』なので、レートによっては日本より安いのだ。
(※市中レートと公定レートに差のある国の場合、ほとんどタダみたいな金額でパスポート発行できる国もあるのだ)

でも、ワイは大使館でやりたくない。パスポート発行地んところが「フィリピン大使館」と記載されてしまうのがイヤなのだ。
パスポートの発行地というのは、まれに書類に記載することがあるんだけど、フィリピン大使館発行というのは、

いかにも「ふふん、俺フィリピンのベテランだもんね?」

という香りがするのでイヤなのだ。できれば日本で発行したいというのが乙女心なのである。
しかし当時はコロナ真っ最中で、マニラの大使館で更新するしかなかった。しゃあないのでそうすることにした。

写真を撮りに行く

私は、身分証の写真を一切気にしない。いつも一発撮りである。あれがいい、これがいい、なんて事は考えたことも無い。なんでもいい。
さっさと撮影して写真を揃えることしか頭にない。

近所の写真屋に行って撮影をしにいく。
「なんに使うの」「パスポート」というと、撮影の兄ちゃんは
「なぁーにぃー?やっちまったなぁー!!」という表情をして、ものすごくウキウキして撮影が始まった。イヤな予感がした。

早く欲しいのに、兄ちゃんは「一生モノの写真だかんね!」という気合が入っていて、ああだこうだと注文を付けてくる。ウザイ。
いいからビリサンモ(早くしろ)ということで撮影が終わったんだけど、そこから1時間位たっても写真が出てこない。

なにやってんの!とカウンターを乗り越えて画面を見てみたら、私のホクロやシミを、ひとつひとつ除去していたのだった。なにやってんの??
そんなんしなくっていいから!印刷して!と言っても聞かない(なぜ?)
どうやらフィリピンにおいてパスポート写真というのは、そりゃあもう一番の写真でなければならぬらしい。
パスポートの写真というのは、写真屋が気合を入れるほどに周囲に宣伝効果があり、つまり他の客も付くというわけで、そりゃもう大事な仕事なのであった。

渡された写真は、メッチャ加工された写真であった。
ヨレヨレのTシャツを着ていた私は、バシッとスーツを着ていたのであった。なるほどイケメンに仕上がっている。シミもホクロも除去されている。
なお加工賃というものは無く、普通に100ペソほどであった。写真屋は、このサービスで他と差別化しているんだろう。
Tシャツからスーツになった関係で、首の配置が見るからにおかしいw

—-これ大丈夫なのか?日本の役所で通るんか・・・??

「いやーどうよ?ネクタイ青のほうが良かったかなぁ~」なんて言ってる。いや俺白黒にしてくれっていったよね?
「なんで白黒!カラーのほうがいいでしょ!絶対カラーでしょパスポートなんだから!」

・・あのさぁ、俺の言うとおりにしろよ商売なんだから。お前は黙って写真撮って印刷して渡せばいいんだよ。

 

日本のパスポートは白黒でも通るのである。
しかし、俺の腕いいだろ!とドヤ顔している兄ちゃんに敬意を表して(というより疲れて)じゃあカラーでいいやということにした。

イヤァー・・・それにしても・・・これ大丈夫なのか?顔の特徴加工していいもんなんだろうか・・・
手渡された写真は、まんま加工された写真である。「パリの凱旋門と自分の顔を強引に加工してフランス行ってました!」っつうような、
あからさまに違和感のあるスーツ姿の、一時間前の俺がいた。提出先は日本国の役所である。

うーん・・・もろフィリピンのノリ100%って感じである。

こんなん提出して大丈夫なのか?と思ったけど提出することにした。
別に犯罪ではないし、顔が同じなら問題ないだろう。他の写真屋に行っても、どうせ加工されるのだ。

日本大使館に行く

大使館に行って、パスポートの発行を告げると紙をくれた。当たり前だが記入事項が多い。チャッチャと書いていく。
一番緊張するのは署名欄である。署名欄は小さいけど、ココが転記されてパスポートに乗る。
フィリピンの場合、銀行口座の署名と絡むので、上手に書かないといけないーーーアッ!

緊張のあまり、メッチャデッカク書いてしまった。まあいいや。提出したろ。

—すいません、写真屋に行ったら加工されたんですけど
「あ、大丈夫ですよー」
いいのであった。

—すいません、署名欄思いっきりはみ出しちゃったんですけど
「あ、大丈夫ですよー」
いいのであった。いいのかよ・・・

3日後、パスポートを受け取ると、署名欄はみ出た部分もちゃんと上手に収められていて、写真もそのまま採用されていた。
在フィリピン日本国大使館旅券係グッジョブである。客の要望に応えるのは商売の基本である。安からぬ手数料を払った甲斐があったのである。

まーおそらくだけど、フィリピンの写真屋は顔を加工するのが当然ということになっていて、大使館もそれを弾くと業務にならないからOKしちゃってんだろうなと思う。
なにしろ持ち込まれる写真がほとんど全部99.9%そうなんだから、厳密にやったら大使館本来業務が回らない。パスポート更新なんて毎日何人も来るんだから。

 

日本の係員ならこうはいかないだろう。

—すいません、写真屋に行ったらフォトショでメッチャ加工されたんですけど?
「ダーメダメダメ!アンタ何考えてんの!」一刀両断にされ、説教されて一日を無駄にするだろう。(そりゃそうだ)

一応、日本大使館の名誉のために書いておくけども、令和の現代において、空港や出入国管理というのは顔、指紋等の生体認証でガンジガラメにされていると思っていい。
パスポートの写真も大事だけど、本人と分かる程度であればよいとされている。10年パスポートが当たり前の時代、整形、髪型、メガネ等、容貌は相当変わる。
特に女性なんか、10年前と変わらないほうがおかしいだろう。子供だったら0歳と5歳で全く異なる。だから出入国管理実務では、写真そのものにあまり焦点を当ててない。
本人であるかどうかという一点だけが重要なのだ。
そういう意味では、ホクロ等を除去してしまうマニラの写真屋は善意の余計なお世話と思うけど、生体認証はホクロは関係ないのでOKなんだろう。
目や鼻の距離等といった特徴点を抽出する顔面認証技術では、その程度のことは全く関係ない。そもそもホクロは除去できる。
(それにフィリピンのパスポートは日本が技術指導しているw 認証から発行機械まで、まんま日本製なのである。比の写真屋程度の小細工で突破できるわけがない)

もうひとつ言う。大使館は様々な業務をしている中でパスポート発行をしている。お疲れである。そして日本はパスポートセンターという専門部署だ。
本国から遠い大使館は発行が早いのに、本国のパスポートセンターは何をチンタラ一週間もかけているんだろうか。お前らパスポート以外の業務が無い部署なのに、である。
行政改革というけど、本国なら2日で発行するスピード感があってもいいんじゃないのか。

困窮邦人が飛び掛かってきて、浪花節を並べるようなフィリピン大使館職員らは、限られた人員で三日でパスポート出してる。
邦人の旅券発給については、日本大使館は文句の言いようがない。エライのである。マニラに限らず、海外発給のパスポートはどうやら優先処理されているようだ。

じゃ、どうして専門部署の都道府県パスポートセンターは7日、10日と時間をかけて、ハガキ持参で出頭させるんだろうか。
在留邦人はハガキなんて無くって「この日付に来い」「あいよ」で誰もが受け取れているんだが。どうして本国のほうが無能なのか。
海外逃亡の恐れのある人物の照会等あるのかも知れないが、それって結局やることは大使館/領事館と一緒である。
三日位は現実にかかるとして、あとの四日はなんなのか。日本に住んでいるというだけで、どうして四日も遅れるのか分からない。

外務省にいいたい。日本人のパスポート発行は、ついに2割を割って19%くらいだそうだ。

私たちの国は、海外があってこそ先進国たりえるという事実がある。海外を知らない日本人が減れば減るほど、国益を損なうのだ。
在留邦人あってこそ、石油やバナナがいつでも手に入る生活を送れるのが日本なのだということを知ってほしい。
本国のパスポートセンターは、一日でも早く発行を短縮してほしい。

国際指名手配のリストに入ってないか?国で懲役刑の執行猶予は無いか?公安の監視対象じゃないか?紛争国に渡航するんじゃないか?
過去にワシントン条約違反してないか?入管の履歴はどうなっているか?確かにいろんな審査項目はあるだろうけど、そんな照会は一日で終わらせるべきである。
出来るはずである。だって、いま出来ているんだから。

在外大使館が三日で出しているなら、本国でも三日で出してもいいんじゃないか。不都合は何もないはずだ。だって同じ日本国の有効旅券で、同じ審査のハズなんだから。
国内の人たちも「3日旅券」にならないものか。それほど難しい話じゃないと思う。

日本の場合、執行猶予で保護観察という『微妙な市民権を持っている人』が、有効旅券を持っていると出国できてしまう。
これは全くの犯罪ではないけど、裁判所の許可がない場合海外逃亡とも受け止められてしまう。そして10年パスポートの場合、犯罪を犯す前の旅券だから通ってしまう。
執行猶予取消を覚悟する人もいるかも知れないけど、国際結婚している場合はまた話が複雑になってくる。(家族に会いにいくのは人道上当然のことなので、海外に行くのに理由があるとなる)

こういった、日本国民の99.999%ほどの激レアSSRガチャの人も審査しているので、国内のほうが遅くなるんじゃないかというのが私の想像だ。

海外に居る日本人というのは、ある意味日本で犯罪を犯せない。在住歴が長いほど日本の犯罪者リストから消えていく。
在留邦人というのは、100%鉄壁のアリバイがある人々なので、日本の指名手配等の審査は住んでいる年月分シロと判定される。日本にいないんだから当然だ。
パスポートというのは犯罪履歴と密接に関わっている、いわば無犯罪証明そのものという性格を持っている。(執行猶予中や、出所後間もない人はパスポート発給を制限されることがある)

 

つまり出国履歴が長いほど、日本の無犯罪は当然立証されるわけで、在留邦人の優先と合わせてパスポートの発行が早いんじゃないかなと思う。
でも、手作業でやっているわけじゃないだろうし、どうなんだろうね。

おそらくだけど、真実としては、いまだに法務省と外務省が縦割りだっていう単純な理屈なんじゃないだろうか。
在留邦人というのは国の事情なんて一切関係ところで生きているから(発給10日なんてのは話にならないほど遅いので)横断的に優先で3日発行になっているんだとおもう。
上記は想像だけど、的を外してはいないんじゃないかな。

 

というわけで!もしもパスポートの写真が気になるひとならば、マニラで更新してみてはどうでしょうか。
シミや小じわが気になる女子もあら不思議。若返ったパスポートで次の10年戦えます。

 

(※注)

海外でパスポート発行を受けた場合、旧パスポートと新パスポートの間で出入国スタンプがズレる都合上(片方には入国、片方はマッサラという状態になる)余計な手続きがかかります。
この記事を本気にして、たかが写真の為にマニラに来た場合、マニラ入管本局に出頭して転記手続を行わないと出国できなくなりますので念のため申し添えます