三億ペソを抱いて寝る男(11)
途中で脱線したり、笑いあり、イイ話あり、と、玉城の話は延々と続いた。
外は本格的に大雨になっていたが、話が盛り上がり、そんなことさえどうでもよいように思えた。
途中、給油をしたり、道路を迂回しながら北上していったのだが、そのあいだ、ずっと話をしていた。
話が長くなりすぎるので、顛末だけ簡単に書いておこう。
Bチーム。フィリピンで就職しながら、カジノ部隊を支える三人の件。
ひとりはカジノの日本人デスクに就職しようとして失敗。その後、フィリピンマフィアと仲良くなり、数々おかしな案件にクビを突っ込んだ末、信頼を得ることに成功。フィリピンコネ要員としての地位を得た。
ひとりはAチームの交代要員として、半分Aチームで活動していた。ただしチーム外であるので、自身はポーカープロになるべく、フィーバータイム発生を念頭に置きながらカジノ観察もして過ごした。
ひとりは、もっともよい就職先を得たので、銀行口座やコンド契約の際、全部コイツの名前で契約することが出来た。
Cチームの帰国組は、ふたりは地元に帰り、ひとりは旅行系の仕事に入った。
おおよそ、こんな感じらしい。
半年でお金が儲かり始め、3年で一区切りという話だったのに、どうして5年もかかったのかというと、まず、儲かりすぎて止められなくなったこと。次に、フィリピン組の中には、もう移住を検討するものも出てきたこと、最後に、パスポートを失効して、そのまんまのヤツが五人も発生したこと等の書類上の事があるそうだ。
夜になるまで、ほぼノンストップで車を走らせていたが、ようやく行先に到着した。とうとう、ルソン島の最北部あたりまで来てしまった。
「着きました」
そこは、一応リゾートホテルという体ではあるが、辛うじてエアコンがある程度の、粗末な建物だった。
まさかここに、日本人好みの隠し温泉があるんですか?と聞いてみたが無視された。
ゾロゾロと、ワゴン車から軍団員が降りてくる。
玉城は、軍団員に声をかけると、彼らはチェックインも挨拶もせずに、どこかに行ってしまった。
「我々は先に部屋に入りましょう」
玉城は、何度か来た事がある様子だ。チェックインして部屋に入ると、外観の予想以上に小奇麗な部屋だった。しばらく部屋で待機していると、内線が鳴った。メシくいましょうと言う。
荷物を置いてロビーに集合すると、併設されているレストランで、軍団員達が、抱き合ったり泣いたりして、もう酒盛りがはじまっている。
季節外れのリゾートホテル。客は私たちしかいないらしく、完全に貸し切り風だ。カラオケセットも運び込まれており、これから小宴会をやる様子だ。というよりもう始まっているといったほうがいいのか。
軍団員以外にもフィリピン人や、ホテルスタッフも混ざっていて、誰が誰やらわからない。玉城はもう挨拶されっぱなし、話かけられっぱなしだ。
カラオケがセットされると、そのマイクを使って、玉城が簡単にスピーチをはじめた。
「今日という日を、待っていました。」
全員拍手である。俺も拍手した。
「上原、ありがとな。お前が一番当てたんだってな」
上原と呼ばれたその男は照れていた。みんな上原に大拍手を送る。
「その上原が、泣いて帰国したいと弱音を吐いたとき、いつも支えてくれたのが比良だって聞いてるけどな」
身内ネタらしいが、爆笑である。比良と呼ばれた男にも、大きな拍手が送られた。
「そして。リゾートカジノでのフィーバータイム予告を見破ったシモ。下地君。君のおかげで後半があります」
下地は両手をあげて胸を張った。盛んに拍手が送られる。
「フィリピンに残って、これまでカジノで頑張ってくれた上原、比良、下地。本当にありがとう!三人に乾杯!!」
乾杯ーーーーー!!そしてまたまた拍手である。
「では次に、カジノチームを支えてくれた、砂川君。砂川君は、警察やマフィアや役所の内部にまで手を回せるくらい、コネも言葉も頑張ってくれました。一番汚れ役をしたのが砂川でしたね! 城間は、カジノチームの補佐役をしながら、自分のことは自分でやってくれました。そして新里は!——-新里は何やったんだっけ?!」
これまた大爆笑である。
新里と呼ばれた男は、玉城サン勘弁してくださいヨォ~!!と絶叫してイジられている。
「—新里は、フィリピンにいる仲間への名義から送金受け取りから経理まで、全部やったもんな!新里ありがとうな!!」
玉城がそういうと、全員、割れんばかりの拍手となった。
「そして今日。俺たちのかけがえのない仲間が、日本から来ました。ドアに注目してください。仲村。照屋。知念、入れ!」
そういうとドアが開き、三人の男がレストランに入ってきた。
あっという間に輪が出来て、頭を叩かれたりビールをかけられたりしている。
ひととおり手荒い歓迎が落ち着いたところで、玉城が再度マイクを握る。
「あの日から、今日まで、5年と7ケ月たちました。今日をもって、俺たちのフィリピンカジノ物語は、区切りとなります。明日はいよいよ第二部です。今晩は思いっきり飲んでください。明日の午後五時には、必ず部屋にいてください。以上!—あ、最後に、アソコにいる方は、私のフィリピンの友人ですので、心配しないでください」
それは私のことらしい。
レストランは、大したものは並んでいないがビッフェとなっており、食いたいヤツは好きなだけ食えるといった風。酒は、箱で50箱くらいビールがおいてあった。
軍団員達は、いつ終わるともしれない思い出話に花が咲いており、とても外様の私が声をかける感じではない。
ひとまずメシを食べていると、またひときわ大きい歓声があがった。
若い女性が二十人ほども入ってきたのだ。なんとも手配のいい…ww
確かに、リゾートホテルだから、部屋は好きなだけ空いているしなぁ…それにしても景気のいいことで。
「どうですか、楽しんでますか?」
不意に、ビール片手の玉城に声をかけられた。「乾杯!」
ああ、乾杯!いやぁ…見事なスピーチでした。かっこよかったです。
「いやぁナニナニ…今晩は楽しんでいってください。気に入った女の子いたら、」
ああ、ハイハイ。みなまで言わなくていいですw
「ヤんなくても一緒ですよ。もう全員分、カネ払ってありますから!!」
玉城は上機嫌で、俺の肩に手をまわしてくる。相当気が緩んでいる様子だ。
「今晩はね、もう全員潰れるまで飲みますから。本当のね。本ッ当ーーの無礼講」
軍団員に合わせるというのは、この宴会のことだったんですね。
それにしても、凄いところに引っ越しますね。今後からは飛行機でないと会いに来れないかもしれません
「引っ越し?」
え?
「引っ越しなんてしないよ」
え?
「言ったじゃん!言ったじゃーーん!!みんなで一緒に温泉でもって!!!!」
言いました言いました!ハイ。
「だろ?」
はい
「じゃあ、イイじゃん」
いや玉城さん。さらに疑問が沢山あるんですが….だって、帰国の時に
「帰国の時だよ」
ハイ
「だから。明日、帰国するんだよ!みんな一緒に」
…….
ああ…..
分かった…そういうことだったのか….
(12につづく)