三億ペソを抱いて寝る男(7)

結局、この三億ペソはなんなのか…話が長いばかりで、なかなか先に進まないのだが、その話が面白いので、中座もできない。

もう、腹をくくって、全部最後まで聞かねばなるまい。最後まで聞かないと、多分、ズッとこの先モヤモヤするだろう。

話が長すぎるので省略すると。カジノのイカサマディーラーと客はどうなったか。取り逃がしたらしい。というより、彼らは単に立ち去っただけなんだろうが。

その「ヤツらを逃がした夜」。軍団員達は一同に集まって、今日の反省会をしたらしい。次、どうやって捕まえるか。アイツは中国人かも知れないだの、今回は5も一回出ただの、前とカバンが一緒だっただの、延々とそんな話をして盛り上がっていたと。

じゃあ次は、お前は正面に張り付いて、お前はコッチの出口。VIPルームにもひとり。スマホの電源は通話状態にしとこう、なんつって、作戦会議をしたらしいのだが…

「ズレてますよね」

はい。私もソレを言いたかった。

そう。ズレているというか。捕まえることが目的じゃないだろと。

この話。じゃあ、ディーラーと客を捕まえてどうすんの?ということだ。将棋で言えば、二手先を読んでない。

捕まえてから、どういう話をするかということだろう。

「そうそう。さすが、カンがいいですね。そう。それを私も軍団員に言ったんです。なんの話をするのかと。まさか、いきなり声をかけて、イカサマ仲間に入れてくれ』とは言えないだろうと。そしたら『そーですね』と、シーンとなっちゃった」

ですよね。まさか攫っちゃうわけにもいかないし。

「そう。話が出来ても、無視されるか、トボけられるか、セキュリティ呼ばれて終わりなんじゃないのと」

はい。ディーラーは…?

「それも調べたんだけど、あいつらはもっとダメ。送迎付きのワゴン車みたいなので、タコ部屋みたいな寮に住んでる。プライベートの時間でも、外部のひとと会うには、なにか取っ掛かりが無いと」

えー。じゃあ、そっからどうしたんですか?

「諦めた!」

諦めたんですか!!

「うん。ここまでやってきたことに悔いは無かったけど。結局、どうすればわかんなくなって…撤退だと」

えーー

 

「で、軍団員。その時は全部で9人いたんだけど、みんなで相談して決めてくれということになった。止めるも進むも決めてくれと。俺はもう決められないって言って」

はい

「それで、その9人で決めたことがこの通り」

 

一.三チーム作る。3人はカジノを続ける。3人はフィリピンで働く。3人は帰国。

二.カジノチームは、なんとしてでもイカサマの謎を解く事

三.就職チームは言葉と経験を鍛え、カジノチームを補佐する役割

四.帰国チームは日本で働いて、フィリピンにお金を送金する。金額は任意

五.今日から抜けるのは自由。抜けた場合、取り分は一切無し。

六.3年続けてダメなら撤退

七.毎年2月と8月にマニラに集まって全体会議をする

八.秘密は墓まで持っていく

九.どんな報告でも玉城さんに上げる

十.絶対に金持ちになる

 

「こんな取り決め決めてきたの」

なんですかコレ(驚愕)….というと。結論は『続行!!』ッ!!

「そう。続行。今後は俺の退職金じゃなくて、軍団員でお金を作ると。俺たちでやりますということになった」

凄いですね軍団員w

「そうなの。よく出来てるでしょコレ」

そうですね。どれを選んでも『ちゃんと役割』があるし、人数が奇数というのがいいですね

「え、そうなの?」

ハイ。偶数だと、意見が割れた時同数になります。奇数なら一人の意見だけだと通らないし、三人全員で決めたことだと守りやすいです。相互監視という部分でも良いと思います。それに、この就職チームというのが潤滑油になると思います。タマちゃんというリーダーもいるし、悪くないんじゃないですか?

「あーなるほど。たしかに」

年配の人がひとりリーダーでいると、若い人って動きやすいんですよ。若いひとばかりだと戦になりますからねw

「そうねw」

期限も決めてあるし。それにしても三年も使いますかね…

「まぁ、結局、コレ5年使いました」

エッ?

 

「ところで。またもう暗くなってきたんで、続きは次回…というかね。わたしからお願いがあるんですよ」

ハイなんでしょう

「軍団員に会いたくないですか?」

ええええええええええええええええええ!!!!!!会いたいです!!!

「あのね。実はみんなでフィリピンに集合してね。日本に一時帰国してね。パァっとゆっくり。温泉遊びでもしようなんて話出てるんですよ」

ええええええええええええええええええ!!!!!!いつですか?!!絶対行きます!!

「それがちょっとね。10人集まりますからね。みんな都合ありますからね。申し訳ないんですが、直前になって連絡差し上げるかも知れません。それで、いいですか?」

ハイわかりました

「そのときは、車で来てください。宿はこちらで準備します」

宿?

「この近くに泊まってほしいんですよ」

あなる。

「残りの話は、道中お話ししましょう」

わかりました!!

 

ということで、再び玉城の家を出たら、二日目も外は真っ暗であった。

それにしても収穫だ。やったぜなのである。この玉城軍団絶対面白い人たちだコレ。それに、わたしは丁度、玉城と軍団員との中間の年齢に当たる。これから彼らといろいろ仕事になっても面白そうだ。お金はあるんだから、おかしな裏切りもなさそうだ。

しかし、バコールから空港までの道中となると、一時間もかからず着いてしまう。これは次回、質問を吟味しないといけないな…

等と思っていたのだが。

 

それから。玉城との連絡は途絶え、何週間も待たされることになることを、当時の俺はまだ知らなかった。

 

怒涛の(8)へ続く