三億ペソを抱いて寝る男(1)

スーカットにある、典型的なタウンハウス(※一階部分が駐車場になっている家)に着いた。

今回の相談相手は自宅で話をしたいというので、言われるままにお邪魔しますというわけだ。さてどんな話であろうか。

ドアベルを押そうとしたら、その前に鍵が開いて「やぁどうも、お待ちしていましたよ」と日本語が出てきた。

今回の『マニラの中の懲りない面々』はこのひとらしい—みた感じ50代?

「いやー、ようこそいらっしゃいました!」

部屋は小奇麗にしてある。広い。たっぷりとした3BRの家だった。

「ブログ読んでますよ~!!あ、お酒好きなんですよね。なにか飲みますか?」

いえ、わたしは昼からは呑まないので、と言いかけると「じゃあコーヒーね!」といって、スマホをいじっている。

「あ、わたし玉城といいます。タマちゃんと呼ばれてます」
ああ、タマちゃんですね!じゃ、タマちゃんと呼ばせてもらいます、と私も調子を合わせる。ワリと軽いノリのようだ。

スマホをいじりながら、ずっと喋っているこの男。一体相談事はなんなのか。

初対面なので、ひとまず雑談をしようかと腰を下ろす間もなく、ドアベルが鳴った。あらら。コーヒーを出前で頼んだらしい。

フィリピンの誰かの自宅で、わざわざ外からコーヒー2杯。取り寄せる人を初めてみた。しかもタマちゃんは、千ペソ札(円にして2500円程)を払った様子だったが、お釣りを全部チップとして渡しているのを、私は見逃さなかったw

なるほど。そりゃあ近所の喫茶店の兄ちゃんがスッ飛んでくるわけだ。早いと思った。

おや?今回の相談相手は羽振りがいいな。もしかしたら久々に…実に久々に、お金になるかもしれないぞ?等と、私はセコいことを考えていた。

「いやいや!近所にピックアップコーヒーっていうのが出来ましてね~毎日出前してもらってるんですわ!」

—え?!ピックアップコーヒーごときに千ペソ払う男!これは益々面白くなってきた。

ほんでタマちゃん。今回の相談ってなんなんです?

というと、玉城は寝室に手招きをした。「これなんですわ」

カギも無い、ただのアパラドール(※洋服をかける大型の家具)の中。

全部。ギッシリ。千ペソ札。

10万ペソごとに輪ゴムで縛られている。100万ペソで一つの塊—レンガというのだが—そのレンガが、無造作に積まれていた。

札束特有の香りが、強烈に鼻につく。一目みてホンモノであった。

「多分、全部で三億ペソくらいあります」苦笑いをしている。

さすがに言葉を失った。

玉城と目が合う。

え。

まさか。このカネ、なんとかして欲しいって話じゃないでしょうね…

 

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※この話は小説です