マニラのクソじじいタクシーで当たりを引いた件
マニラのタクシーで、ジジイを引いたら外れである。
メーターなのはいいけど、なにしろ道を知らないし、コッチの言っていることが分からない。道案内してもダメで、結局上乗せタクシーよりも多く払うハメになる。
(メーターだから文句も言えない二重苦である)ま、これはマニラに限った話じゃないかもしれんけど。
つい先日、ケソン郊外からエドサのメインアベニューまでタクシーに乗る機会があった。
そんときの私の連れが、「タクシーはメーター以外一切認めない。50ペソの上乗せなんてとんでもない!」という、非常にめんどくさい人だったので、私たちは、ボゲーッとタクシーを待っていたのである。
グラブを呼べば済む話なんだけど、なんか私のアプリが個人情報寄越せとリクエストが来ていて、ウザいので運悪くほったからかしにしたままであった。
まあそんな折、うまい具合に一台目でタクシーを拾えた。メーターである。運がいい。
行先はメインアベニューである。(EDSAなんだからバカでも分かる)しかし運転手は分からない。見るとヨボヨボのジジイであった。
「うわぁ・・・」わたしはすぐにナビをセットすると、この通りに行けという態勢を整えつつ、メインアベニューのランドマークを連呼していた。
—どうやら理解してくれたらしく、タクシーは行先への進行方向に進みだした。やれやれである。
マニラのタクシーなんて、どーせ道知らないんだから、だいたいの方向が合っていればそれでいいのである。
すると同乗者が「コレ、逆走してません?」とか言い出した。そんなことはない。俺のスマホでは、ちゃんとメインアベニューに向けて進んでいる。
でも騒いでいるからなんだろうと思ったら、なんのことはない。ただ車線を逆走しているだけであった。そんなことでいちいち騒ぐこともないのだ。
が!
どうも様子がおかしい。
—-このジジイ、時々逆走しているんじゃなくて、常に逆走しているのだ。我々はどうなったかって?もちろん気分は最高である!
というのも、わたしたちは、前日楽しい時間を過ごしたのだ。あとは刺身でも買って、三々五々に自宅に戻る途中であった。戻っても憂鬱な日頃のルーティンが待っているだけだった。
そんなとき、たまたま乗り合わせたタクシーが、まるで映画「タクシー」のように(ほんとにそのまんま)ボタンを押せばミサイルでも出てくるんじゃないかという『走り』を見せてくれたのである。逆走ごときでビビらない俺もビビったのである!しかも、何度見てもヨボヨボなのである!
俺もオトコなので、こういうのは好きである。いや、なんか物凄く、なんか大切なものを思い出させてくれたような気がしたのだ。
会社のドライバーで、逆走を説教してクビにした時もよくあったけども、なんつうか、時々はこういうのもイイと思えた。それほどかっこよかったのだ。
もう。もはや、ヨボヨボだの、ジジイだのといっては失礼だろう。この運転手だって、かつてははちきれんばかりの若さがあった男性なのだから。俺だっていつかはそうなる。
それにしてもカッコいいの一言。これがあるからマニラの白タクは止められない!というほどだった。
(音楽でいうと、ダルーくタクシーに乗ったらいきなりこんな感じだったので、是非、下をポチってから残りの文章を読んでほしい)
とにかく、いったい誰と戦っているのか?というくらいに、そのジジイ、いや元若者、いやいや元荒武者の運転テクニックはすごかった。
彼は年老いたので、もはやマニラで客とメーター交渉などは出来ないのだ。(まして今回は男二人である)
だから、彼は、それを上回るスピードで、客を送り届けることにしたようだ。いやはや参った、参りました。
なにしろ、同業者(泣く子も黙る他の白タク)が出てくるところに、一切そんなことする必要ないのに、あえてかぶせてスレッスレで割り込むし(これがどれだけ凄いことか、マニラに住む人は頷くであろう)信号なんて存在すらしていないんじゃないかというほどショートカットを試みる。アホほど隙間の無い車間をスリ抜けて見せ、キュッとガソリンスタンドからのショートカット。惚れた。かっこいい。文句ナシにかっこいいのである。
マニラでヨボヨボジジイのタクシーに出会ったら最後。ボッタくりより悲惨な目にあうということをこれまで散々書いてきたが、訂正せざるを得ないのであった。
だってケソン郊外からメインアベニューまで、なんと100ペソかからなかった。速すぎなのである!(なんたって渋滞ゼロなんだから当然なんだけど)
俺らふたりは、到着して拍手してしまったのである。もちろん100払ってお釣りはいらない。要るわけない。藤原豆腐店のステッカーでもプレゼントしてやろうかと思うほどであった。
男というのは、かっこいい男を見ると、無条件で惚れてしまうものである!
(だいたいこのくらいのカッコよさである)
おそらく、この人、EDSAのバスレーンもガンガン走っているだろう。(しかもおそらく顔パスなんじゃないかと思える)クロコダイルに、ちょっと手を上げてオシマイ的なオーラすら感じてしまった。
私は当日半休で午後から仕事だったんだけども、偶然乗ったこの「TAXI」が最高だったんで、気分は上々。なんなら残業すらしてしまったほどであった。
メモ:今日飲みながら書いた酒:バランタインの紅茶割数杯。その前に客先でビール何リットルかのんだ
知恵を使えるなら、わたしより読者のほうが上だろう。