なぜフィリピンの車名義は7割未登録なのか?

現在、バイクも含めたフィリピンの全車両のうち、IDと車検証が一致する車というのは、実に3割しかないそうだ。
首都圏でも4割というのだから、日本の警察だったら激おこの話である。

こういうニュースを読むと「フィリピンはいい加減だからー」という感想を持つだろうけど、本当は違う。何故なのか?ということについて、今日はニュースを深堀りしてみようとおもう。

比人だって自分名義にしたい

比人であっても、自分の車両は自分の名義にしたい。これは大前提である。そうできない理由があるのだ。

まず。比では自分名義の車やバイク(以下車とする)でなくても、それが証明さえできればお咎めナシである。細かい法律は別として、現場の取り締まりではそうなっている。
だから、名義変更をする理由が乏しいのだ。

ではなぜそうなってしまうのか?ということを書こう。

 

車両というものは、基本的に中古で流通するものだ。新車で買うヤツもいるだろうが、中古車を買うという選択は世界中で行われている、ありふれた取引だ。
日本でもそれは変わらない。資産価値のある比では尚更だ。

比では、車両の譲渡というのは「公正証書付契約書」で行われる。車検証の持ち主が、「確かにこの人物に売り渡しましたよ」という法的根拠のある素晴らしくいいかげんな書類だ。
ま、これさえあれば、あとはIDのコピーとサイン(とORとCR)をセットにして、LTOに行けば名義は変わる。

ところが、この手続きにはお金がかかるしめんどくさい。だから、大多数は譲渡したという証明書だけをもって、現実の名義変更は行わない。
いざとなれば、この書類さえあれば、すべてが収まるのだ。から!名義変更する理由がないのだ。

そうしているうちに、新しい車が欲しくなったとする。
そのためには古い車両を売る必要がある。そして実際に売る。古い車両の買主に譲渡証明を渡して安心させるのである。買主はバカだから、ああお前のものだなと書類もあるので金を払うわけだ。

するとどうなるか。

わかりやすく整理しよう。

AさんはBさんにバイクを売りました。
Bさんは、Aさんから書類を貰いました。だよな?

ここで、BさんがCさんに、手続きをしないまんまに売ってしまうとどうなるか。
譲渡証明は、あくまでもAからBの書類なので(だってAさんとCさんは完全にアカの他人である)なんの意味もなくなるのである。
だから、Cさんは、Bは関係なく、Aさんから自分(Cさん)に対しての譲渡証明を貰わないといけないわけだ。←ここが最重要ポイントである!

現実的に、AさんがBさんに売ってから、BさんがCさんに売るまでというのは相当な期間がたっているので、連絡も取れないことがほとんどだ。Cさんにしてみると、Aさんは完全にアカの他人そのものだし、距離も離れてることだってあるだろう。それに事情を話してもうまく進むとも思えない。Aさんにしてみれば、とっくに終わっている話だ。そもそもOFWで海外にいっているかもしれないし、なんだったら死んでいるかもしれない。車の前の前の持ち主と、改めて契約しなおすなんて、夢物語なのだ。

だから、比の名義変更されていない車両は、今日もどんどん増えていくのである。

譲渡証明書というのは手続きしていないんだからダメだ!とLTOが言わないと、この問題は解決しない。

 

じゃあ名義変更してしまえばええやん?AからCに、なんとか出来ないの?と言われたら、コレ、ちょっとAさんの署名さえチョロっと書き込んでしまえば出来るのである。

ここで威力を発揮するのが、前述したIDのコピーである。IDのコピーと譲渡証明は別書類なので、新たにAからCの証明書類を作ってしまえばいいのだ。
この署名をBさんが公正証書に書き込んでしまえば名義変更は完了する。
(マニラも含め、怪しい公正証書作成をしている業者がたくさんあるのは、こういう需要があるからなのだ)

でも、それにしても、数百ペソはかかる。比の場合、こういう細かいお金でトラブルになることがまた大変多い。偽造することでトラブルになった話は聞いたことがないが、どちらが金を出すかで大体モメル。ほとんどの場合、やいのやいのとトラブルになる。日本に限らず、こういう場合、世界的に売主が費用を負担するものなんだけど、こういうルールが適用されるのはマニラやセブの一部でしかない。

Cさんにしてみれば書類不備だから金返せという話なんだが、Bさんにしてみれば、そんなもの返すはずがないので、だいたいの場合有耶無耶になる。
Cさんだって命は惜しいし、バイクの現物は手元にあるし、なんならDさんに売ってやろうくらいの気持ちでいるわけだ。そして実際Dさんに売るわけだ。

これが繰り返されたらどーなるのか?FさんやSさんまで出てきたらどうなるのか?もうお手上げである。

 

そんなロシアンルーレットみたいな中古車が、フィリピンにはアホほど出回っているので、名義変更が全然進まないのだ!

これが、”フィリピン共和国における車両登録に関する名義実務の真実”である!

 

だから、フィリピンの中古車というのは、自分名義にしたくっても、もう元の持ち主が誰なのかわからないような委任状だの支払証明だのといった、なんの意味もない書類をセットにして売られていることさえある。そして、その中古車屋は、別に悪徳業者ではない。(のでタチが悪い)

自分名義じゃなかったら保険は?事故が起こったらどうするの?と思うだろう?
その通りである。

「フィリピンでは新車を買ったほうがいい」という定説は、車両の程度だけではなく、名義においても大変重要な意味を持つ。あなたや、あなたの旦那の本名が、バチーっと車検証に書いてあるというのは盗難や犯罪で使われていない証明でもあるのだ。比ではマジで新車に限るのだ!

あと。

日本人というのは、この手のことにちょっと潔癖な部分があって、どうも他人名義の車というのは、のびのびと乗り回せない。

書類不備車両について

この書類不備車両についてなんだけども、基本、マニラ以外ではまず問題なく乗れる。(※バイクを除く)
いわゆる州(田舎)で検問に会うのは、せいぜい年一度程度だし、あまり書類を見られることもない。(もちろん運が悪ければ厄介ごとになるけども)

ただしバイクだけは自分名義にするべきだ。比の検問は、基本的にバイクを集中的に止めるからだ。
車を検問すると大渋滞が発生するので、選挙の時でもなければほぼ安心していい。ただしバイクは無差別に止めまくるので、書類不備のバイクは絶対に手をつけないほうがいい。

もう一点。

ただの書類不備ならいいんだけども、比では名義変更の際HWPから無犯罪証明手続きというのがある。
これは「あんたのバイク/車は、フィリピン全土でなんの犯罪も犯していない、届け出が出ていない」ということを証明する書類なんだけども、もしもこれに引っかかったらどうなるか。

簡単にいえば盗難車だったらどうなるのかということなんだけど、これは良くて没収である。
日本みたいに、善意の第三者~なんてことは通用しない。半年かかって戻ってきたら、あなたは相当努力した人である。ほとんどの場合どっかに消えてそのまんま。
それどころか、パスポートに傷がつく場合すらある。これだけは絶対に絶対に避けなければならないので、書類不備のバイクなんて買うもんじゃないのである。